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「アクチュアリテ 食」関口涼子

食を通じた社会活動

 オリヴィエ・ロランジェはフランス料理界の中でおそらく最も社会的な活動を行っているシェフだろう。ブルターニュ出身の彼は最初カンカルで海の幸を料理で表現するレストランを開業、ミシュランの三ツ星も獲得しているが、2008年に星を返上してからは食を通じた社会活動を様々に展開している。難民対象の料理ワークショップ、パリ郊外の子どもたちを相手にした講演会、また、若い料理人が海洋資源問題に意識的になるように、絶滅危惧種の魚は使わず、十分な個体数がある魚を使っての料理コンクールをオーガナイズするなど、その内容は幅広い。

 彼は、この9月に『美味しい革命のために』という著書を出版したが、そこでは、 21世紀の料理人が自ら行っていくべき事柄、各人が意識的になり、さらに団結することで変えていける事柄の提言が22章に渡って書かれている。料理はéthique(倫理的)であるべきだとし、生態多様性を尊重し、環境問題に意識的になることを推奨している。また、具体的な行動としても、小生産者と連携し、職場においては、男女間に給与額や労働条件の差を作らず、積極的に食の教育に関わることなどを提案している。

 今年の6月、彼は日本の三陸海岸沿いの生産者たちを視察し、海洋資源がここでも急激に減少していること、それに対する日本人の危機感が薄いことを指摘すると同時に、海を汚染するリスクの少ない貝類の養殖技術が発達していることを賞賛していた。特に、ホタテはフランスでも多く食されているが、意外なことに養殖は行われていないのだという。

 ロランジェはこの10月に再来日し、自らが副理事を務める国際アソシエーション(550人のシェフが加盟している)、ルレ・エ・シャトーによる海洋資源保護のマニフェストを大阪で発表すると同時に、21日には一般社団法人「シェフス・フォー・ザ・ブルー」が主宰するセミナーを行った。この法人はシェフを中心として海と海洋資源の保全、サステナブルシーフードの普及を目指すグループで、セミナーも日本人の料理人を対象に行われる。日本の環境も他人事として考えないシェフの姿は、今後誰もがそうあるべき社会的な存在としての料理人として、フランスのみならず、多くの国の若い料理人のモデルになっている。

◇初出=『ふらんす』2019年11月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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