知識で楽しむフランス料理
和食ってどんなもの?と外国人に聞かれても、答えに困るように、フランス料理とは?と考えた時に、確固としたイメージが浮かぶ人は少ないのではないか。家庭料理とレストランの料理には違いがあり、ガストロノミ、ビストロ、郷土料理では食材も調理法も異なる。フランス料理の現在は多岐にわたっていて、30年前の料理と今の料理とは同じではないからだ。
フランス料理についてわかりやすく網羅されている本、そんな要望に応えてくれる何よりの本が今年出版された。『歴史、食材、調理法、郷土料理まで フランス料理図鑑』(山口杉朗監修、日本文芸社)だ。サブタイトルに、「プロフェッショナルの知識をイラストでやさしく学べる」とあるように、現在プロの料理人が、自分が若い時に欲しかったと思うだろう知識が詰まっている。
とはいえ、決して専門料理学校向けの難しい書物ではない。絵本のように、全ページカラーイラストでわかりやすく図解されている。
一見フランス料理についての教科書のようだが、例えばワインひとつとっても、地域別の紹介や品種だけではなく、料理とのマリアージュ、保存について、自然派ワインの特徴からワインとビールを融合させた新しいワインドリンク「ヴィエールvière」に至るまで、懇切丁寧な説明があり、フランス料理についての知識が全くない人から、それなりにフレンチに親しんだ経験がある人まで読みどころがある内容となっている。
豚肉はほとんどが加工食品として消費され、レストランで純粋な豚肉料理が提供されることは少ないとか、フランス原産の鶏は40種類以上もいるのだとか、実はフランス人は魚をよく食べ、世界消費量平均のほぼ2倍にも及ぶといった豆知識を仕入れることができるだけでなく、食材の説明の部分では、コック貝は生でも火を通しても美味しいだけではなく、肉とも相性が良いとか、カサゴはトマトやパプリカなどの南仏野菜を合わせるなど、具体的なイメージが湧きやすくなっている。もちろんフランス料理の歴史についても多くのページが割かれ、通常の説明に加えて、カトリーヌ・ド・メディチはフォークをフランス料理にもたらしただけではなく、彼女の登場以降、宴席に女性が参加できるようになったことなども学ぶことができる。
監修者の山口杉朗は、フランス滞在十数年の料理人で、フランス料理に関する歴史書のコレクターでもあるという。現在はフードコミュニティショップWANIを経営しつつ、イベントのアートディレクションチームNIWAのトップとして活動している。実践、理論、そしてフランス料理の歴史と現在に目配りがきく監修者の人選により、単に専門家向けではなく、読者の裾野を広げる本造りが可能になったように思われる。税込2420円という手に取りやすい価格も嬉しい。フランス料理に少しでも興味のある人には重宝する一冊となるだろう。