展覧会で振り返るデパートの歴史
Le musée des Arts décoratifの展覧会パンフレット
「デパート」という概念がフランスで生まれたことは広く知られている。日本語でデパート、百貨店というと、少しばかり時代遅れの感があるが、去年サマリテーヌが長い期間の工事を経て華々しくリニューアルオープンし、プランタンやギャラリー・ラファイエット、ボン・マルシェなど、ベル・エポックの名残を未だ内装の一部に留める店舗に世界中からの観光客が集まるこのフランスの首都においては、「grand magasin(グラン・マガザン、デパートの意)」はいまだ健在だ。そのパリで、デパートの歴史を振り返る展覧会、「デパートの誕生/モード、デザイン、遊具、広告 1852-1925」が行われている。展覧会は2部制で、第1部はパリ装飾芸術美術館(Le musée des Arts décoratifs)で10月13日まで、第2部はシテ建築遺産博物館(La Cité de l’architecture et du patrimoine)で11月6日から2025年4月6日まで開催される。
これは、19世紀から20世紀初頭のこの街の生活を知るまたとない機会であると同時に、食文化に興味がある人にとってもこの上なく興味深い企画となっている。第1部では現代のフランス人ですら見たことがなく、使い方も知らないというオブジェの数々を目にすることができる。デパートに出かけることが、劇場やダンスホール、カフェやコンサートホールに行くのと同等の娯楽となった19世紀後半、ブルジョワ階級で使われるようになった、使用人を呼ぶためのベルや、葡萄用の鋏などをはじめ、ゆで卵カッター、生牡蠣用フォーク、ピクルスを取るためのフォークやオレンジの皮剥きなど今でも使われている道具の、当時の美しいフォルムを鑑賞することができる。
また、ご婦人方が買い物をしている間、パートナーが飽きないように、読書室や、無料のビュッフェを提供するサービスを初めて行ったのがデパートだということなども、この機会に学ぶことができる。
シテ建築遺産博物館で行われる第2部は、19世紀末から現在までを扱い、社会の大きな変容に対し、デパートがどのようにその役割を変えて行ったかがテーマになっている。ベル・エポックの黄金時代を経て、デパートがいかにしてスーパーマーケットの台頭に対抗し、マーケティング戦法を変え店舗の展示空間を変えて行ったか。また、ネットショッピングという新しい消費傾向に対し、どのようにして実店舗ならではの経験とサービスを提供することに特化して行ったのかなどについても学ぶことができる。
会期が長いので、パリを訪れる人には是非ともお勧めの展覧会だ。