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「アクチュアリテ 食」関口涼子

2018年2月号 オリエンタル料理ブーム


シリア・スイーツのパティシエール、ミリアム・サベ
©Caspar Miskin

 先月書いた、イタリア料理の他にも、パリで新しく流行っている料理がある。いわゆる「オリエンタル」料理だ。

 これは、フランス特有の傾向というよりも、イスラエル出身で、今では世界的に有名な料理人、オットレンギのブームを受けてのもの。野菜やハーブの多いシンプルな料理法は欧州全土に影響を与え、レシピ本だけではなく、パリで今年話題になった店は軒並み「オリエンタル」な料理を扱っているほど。「オリエンタル」と曖昧な言い方をするのも、ある国に特定されるのではなく、中東を含む地中海料理文化が注目されているからだ。

 様々な国境にまたがるこれらの食文化は、料理人のオリジンによって区分けされることが多い。そのせいもあって、このブームは長い間、「イスラエル料理」だけに帰されていた。

 ただ、最近は、大手出版社のファイドンから『パレスチナ料理』のレシピ本が出たり、『アルメニア料理』や『レバノン料理を食べよう』などが刊行されたりと、この地域にあるそれぞれの文化の共通点と独自性に意識的な出版物も現れた。「オリエンタル」料理の受容は新しい段階に入ってきたと言えるだろう。

 半年前、モダンなアレンジのシリアのスイーツ店、『メゾン・アレフ』を開いた、ミリアム・サベはこう話す。

 「この地域の料理は、長い間パリでは低い評価しか与えられていませんでした。脂っこい、甘すぎる、くどすぎる、などです。私は、厳選された素材を用いることで、私の愛するシリアのスイーツのエッセンスをフランスの人たちに伝えたかった。私たちの国の料理は、ガストロノミーと呼ばれうる豊かさと感受性を持っていることを伝えたかったのです」

 蓋を開けてみると、フランス人だけではなく、マグレブの人たちや、中東やさらにアジアからの観光客も「こういうシリアスイーツを待っていた」と言うのだという。

 「フランスは、地中海を通して、中東世界とも繫がっています。断絶、遠さよりも、スイーツを通して、私たちが共有するものを伝えたかった。シリアとフランスという両方のオリジンを持つ私自身のように」と話すミリアムの言葉に、味を通して深まる理解は決して少なくはないと思われた。

◇初出=『ふらんす』2018年2月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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