話題の新設ミュージアムで穀物を堪能する!?
今年のパリ美術界の一番の話題は、現代美術の一大コレクションを集めたブルス・ドゥ・コメルスBourse de Commerceだろう。旧商品取引所だった歴史的建造物を安藤忠雄が改装し、この春開館の運びとなった。
この美術館の最上階には、ミシェル&セバスチャン・ブラス監修のレストラン兼カフェ「アール・オー・グラン Halle aux grains(穀物市場)」がある。18世紀には穀物を貯蔵する建物として使われていた歴史に因んでのことだ。
穀物類は、長い間、「貧乏人が腹を膨らませるために食べるもの」とされてきたが、昨今のヴェジタリアン、ヴィーガンブームなどにより、豆類の再評価が進んでいる。また、先月号でも書いたように、古代小麦を使ったパンも流行りだし、ペルー料理からの影響などで、かつては家畜の餌とされてきたトウモロコシにしても、多様な品種と風味に富んだ作物だという認識が高まってきた。三つ星レストランシェフ、レジス・マルコンが2018年に出版した、その名も『シリアルと豆類』というレシピ本が注目されたが、それは、ガストロノミが長い間自らの領域に入れてこなかった豆や麦という、一見地味な素材をテーマに取り上げたからだ。
実業家フランソワ・ピノーのコレクションを収蔵・展示する私設美術館はヴェネチアにも2か所あるが、そちらはシンプルなカフェ併設に過ぎないのに対し、パリには高級レストランを入れたのは、フランス人ピノー氏の自国料理への愛着の表れだろうか。
この店では、様々な形で穀物の可能性が追求されている。ノワゼットオイル、ゴマのヴィネグレット、そば粉風味のバター、ブルグール(挽き割り小麦の一種)と白菜の取り合わせ、レンズ豆と茄子のシードルヴィネガー味、かぼちゃの種をカラメリゼしたミルフイユ、発芽豆をココナッツとライスミルクで調味したものなど、どんな味だろうと興味の湧く調理法が並ぶ。
生地、クリーム、トッピング、すべてに穀物を使用
©Bras La Halle aux grains / Laurent Dupont
15時からのコーヒータイムには、ライ麦、小麦とジャガイモのパンケーキ、南瓜の種、炒った蕎麦の実とエン麦を混ぜたアイスにトウモロコシとそば粉のチュイルを添えたものなどが提供されている。また、ミュージアムショップではブラス監修のチョコレートも購入できる。
レストランは12時半から21時半までノンストップ、年中無休(火曜日は夜のみの営業)なので、パリ中心の新しいスポットとして便利に利用される場所となることだろう。
◇初出=『ふらんす』2021年10月号