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「アクチュアリテ 食」関口涼子

コルシカの景色を閉じ込めた蜂蜜

 コルシカ島の名産として思い浮かぶのはソーセージやチーズなどだが、実は蜂蜜も有名なのだという。養蜂家のクリストファヌ・チッコリさんに話を聞いた。

 「コルシカ島では、自給自足の伝統が半世紀ほど前まで残っていました。蜂蜜も、かつては各家庭で消費する分の蜂の巣を採集したり養蜂箱を持っていたりしたので、売り買いするものではなかったのです。肉も同様で、私の家では1970年代まで年に十数頭の豚を潰していました。もちろん自宅消費用で、肉加工製品も家で作っていました」

 その精神は失われたわけではなく、今でも鶏を飼ったり果樹を栽培する人はいるが、都市化が進むにつれ、蜂蜜も商品として購入するようになったという。

 「コルシカ島の蜂蜜が特別なのは、植生のおかげです。この島にしかない植物も多く、急な斜面に養蜂箱を設置し、様々な野生植物の蜜を採集します」

 ブーケのように鮮やかな春の蜂蜜、爽やかなアロマの夏の蜂蜜、深みがあって木の実やジビエともいかにも合いそうな秋の蜂蜜と、季節を閉じ込めた味に驚かされる。

 「世界各地でミツバチが減少していますが、コルシカでも例外ではありません。私の父は女王蜂を飼育しているので、なんとか収穫量を保っていますが、一つの養蜂箱から採取できる蜂蜜の量も減りました。30年前に比べると、同量を確保するために、3~4倍の手間をかけています。私たちは三家族で手分けして作業をしていますが、多くの養蜂家にとって、状況は厳しくなっていることは否めません」

 それでも養蜂家の仕事を続けるのは、蜂と過ごす時間が何にも代えがたい特別なものだからだそうだ。

 「ミツバチと一緒にいる時、世界には自分と彼らだけだと思える瞬間があります。この蜂たちとの親密な交流の時間をどう表現したらいいか……。蜂がいない人生は自分には考えられないんです」

 「私たちの蜂蜜は、パリや日本にも出荷していますが、多くは島内で消費するために卸しています。自分たちが作るものが、土地の人々に手の届かない食べ物になるのは本末転倒だと思うからです。実際には発展途上国を始めとして多くの土地で起こっていることですが」

 クリの木の蜂蜜、また、イチゴノキの蜂蜜は、それぞれに目を醒ますような苦味と個性があって、一度食べたら忘れられない。コルシカ島の風景を口にしていると感じられる瞬間だ。この味が今後も残って欲しいと切に願う。


チッコリさんの各種蜂蜜

◇初出=『ふらんす』2021年8月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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