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「アクチュアリテ 食」関口涼子

いつでもどこでもベジ料理の時代へ


料理だけでなく食器や紙ナプキンもすべて生分解性のもの

 このコーナーではすでに2回「We Love Green」という大規模野外音楽フェスティバルの紹介をした。パリ郊外ヴァンセンヌの森で毎年6月初旬に行われる、フードスタンドのレベルが高いことで有名なイベントだ。1度目は、音楽フェスに今流行りのレストランが屋台を出すという独自のコンセプトについて、2度目は、地産地消の食材を使った料理スタンドがデフォルトとなるという試みにフォーカスを当てた。このフェスティバルはその後も環境に優しい音楽フェスの路線を維持し、今年参加する料理スタンドはベジタリアン料理だけを提供することが義務づけられている。
 「We Love Green」は、単に約10万人という集客数を誇るフェスティバルとしてインフルエンサー的な役割を果たしただけではない。このイニシアティブに続いて、他のフェスティバルも同じような試みをしているのだ。9月にパリで行われる「Climax」は気候変化やエコロジーに関するシンポジウムとコンサートをマッチさせたフェスティバルで、料理は100%ベジタリアン。地産地消、オーガニック栽培の素材を使った料理といった他の条件もクリアしている。「Le Mas des Escavatiers」は夏と冬の2回プロヴァンス゠アルプ゠コートダジュール地方のピュジェ゠シュル゠アルジャンで行われる音楽フェスで、上記のフェスティバルよりは規模は小さいものの、コンサート会場の周りに完全有機栽培の菜園を作り、そこで採れたものを中心に料理を提供するという特徴を持っている。フォンテーヌブローからそれほど遠くないエグレヴィルで行われる「La doube blanche」というフェスティバルは、音楽と料理の両方に同じだけ力を入れていることが売りだ。
 イベントにベジタリアン料理のみが提供されることはまだ日本では少ないかもしれないが、フランスでは若い人を中心に肉食離れが進んでいることもあり、音楽フェスとベジタリアン料理の相性は決して悪くないのだろう。老舗の音楽バーでさえノンアルコールのリストが増えた。
 若い世代は食べ物に気を使わないと思われがちだが、現在のフランスでは、もしかしたら中高年よりも若い世代のほうが食べ物に対する意識が高いかもしれない。少なくとも、若者文化とされてきた場所やイベントの方がベジタリアン料理率、ノンアルコール率が高いことは明らかで、カクテルパーティーや結婚式の料理が気がついたらほとんど野菜料理だったことも少なくない。「ハレの日にもフェスティバルにも羽目を外したい日にもベジ料理」は、ひょっとすると今後の主流になっていくのではないだろうか。

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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