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「アクチュアリテ 食」関口涼子

パリで味わう、新しいアジア料理

 パリの日本人シェフの中でも若いフランス人の心を最も摑んでいると思われる関根拓。待望の2軒目のレストランが4月上旬にオープンした。今度は、アジアン・フレンチダイニング「シュヴァル・ドール」。関根シェフは1軒目のレストラン「Dersou」でも多様な食文化をミックスさせ、週末のランチではアジア料理も出し、彼自身数多くの旅行を通じてアジア料理に親しんできた。

 2軒目はアットホームな雰囲気のベルヴィル地区。子どもが出来てから行きたい店のスタイルが変わり、小さい子たちも気軽に受け入れられる店を作りたかったのだという。メニューは調理方法(炒め物、蒸し物、揚げ物)で分けられている。良心的な価格設定、清潔でスタイリッシュなインテリア、ワインも楽しめる(通常の中華レストランだとワインは期待できないので)のは大きなポイントだ。

 パリの中華レストランは、ここ10年近く、若い世代による刷新が著しい。各地方料理に特化したレストランや、手打ち麵屋、ストリートフード中華なども珍しくなくなった。そして最新の傾向が、関根シェフのような、フレンチ出身でアジア料理に枠を広げる才能の表れだろう。

 フィリピンオリジンの女性シェフ姉妹、カティアとタティアナ・レヴァがフレンチレストラン「Servan」に続いて去年開けたアジアンレストラン「Double Dragon」は大繁盛だ。インドからイランまで広く「オリエンタル」な料理を提供するデュカスの「Spoon」(こちらは日本人の茂田尚伸シェフ)も好評だ。

 彼らが提供するのは、正統的な中華、中東料理ではなく、それらの食文化から自由にインスパイアされた料理だが、前世代の中華レストランにあったような「フランス人の持っているアジア料理のクリシェに迎合した味」ではなく、それぞれのシェフの旅行、子ども時代の体験、創作者としての個人的表現などに裏付けられている。

 料理とアイデンティティの関係を自由にする、このような店が増えてくるのはパリの食シーンにとっては大歓迎だ。


「シュヴァル・ドール」の関根拓シェフ(左)

Cheval d’or French Asian Table
21, rue de la Villette Paris 19
昼・木~日 12 : 00 - 14 : 00
夜・水~日 19 : 30 - 23 : 00

◇初出=『ふらんす』2019年6月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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