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「アクチュアリテ 食」関口涼子

カマルグの挑戦:アートと料理の複合施設

 ここ数年のアルルの変容には目をみはるものがある。夏季3か月間にわたって開催される国際写真フェスティバルは世界的に有名だが、この夏フランスの話題をさらったのは異分野交流を促進する文化複合施設「リュマ」の完成だ。蒸気機関車の製造と修復施設があった敷地を十数年かけて改築した。デザイン、建築、工芸も含め広い意味でのアートを展示する。目玉となる建物はフランク・ゲーリー設計のタワーだ。

 敷地内にある飲食スペースの料理を監修するのは、カマルグ(アルル市に含まれる)の一つ星レストラン「ラ・シャサニェットLa Chassagnette」のシェフ、アルマン・アルナルだ。彼は15年前、カマルグ北部に菜園と庭園を作り、敷地の中にレストランを開いた。今でこそ、自分の菜園を持っているシェフは少なくないが、彼の菜園は他とは比べ物にならない規模で、パーマカルチャー(完全持久型農業開発)の区画や温室も備え、現在ではアルル市内の複数のレストランにも野菜を卸している。


「ラ・シャサニェット」のアルマン・アルナル

 施設内には複数のレストランやカフェが存在するが、材料の仕入れを全体で行うことで、あるレストランでは使わない部位を他の店で使うなどして、ロスをできるだけ避けることを目指している。カマルグの米が主役の食堂もある。もちろんワインやビール、ジュースも地元産のものを用意している。「リュマ」自体が、地元の素材を活用してオブジェを作る活動を推進し、実際建物の壁や家具などにはこの地方の木や塩などの素材を使用しているが、自ら栽培した野菜で料理をするアルマン・アルナルの試みはこの施設の目的にも適っている。また、素材は地元密着型でありながら、アーティストレジデンスのように外部からの風を入れるのも「リュマ」の特徴だ。

 併設の「ドラム・カフェ」では、数か月ごとに異なる招待シェフが料理をする。開館時はベトナムオリジンのセリーヌ・ファムがアジアンテイストの野菜中心料理を展開したが、今後、ブラジル、オーストラリア、イタリアなどの出身のシェフを招く予定だという。

 美術館併設のレストランが、単におまけではなく、その建物の思想と密接に関わっているケースが次第に増えてきている。料理がそれ自体メッセージを載せる媒体であり、レストランを通して伝えられることがあるという意識が一般に広まってきた証拠だろう。

◇初出=『ふらんす』2021年11月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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