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「アクチュアリテ 食」関口涼子

フランスにMURA(むら)を作る!

 フランスにおける日本食や日本食材の理解は、ここ数年新たな段階を迎えたように思われる。輸入食材の多様化や、日本人で麹や味噌、野菜を販売する人が出てきたことに加えて、最近ではフランス人が作る豆腐、味噌、日本酒、野菜も見かけるようになった。

 さらに、来年春には、日本のエコビレッジ「MURA」がパリ近郊にオープンする予定だ。このプロジェクトを進めているのは、ロワール地方で日本野菜を栽培する東海林杏奈さんと、パリの日本茶専門店寿月堂責任者の丸山真紀さん。

 「2015年に通訳業から農業に転身した時から、食を通じた国際交流が可能な場所を立ち上げることを夢見ていました。日仏の農業従事者が技術交換をしたり、日本の野菜を栽培するところから料理の仕方までを含めて和食の思想を伝えるために」と東海林さん。日本文化の発信を模索していた丸山さんと意気投合して、1ヘクタールの敷地を拠点にエコビレッジを展開することにした。「コロナも背中を押したかもしれません。今フランス人の間にも、もっと自然と直接関わりを持ちたい人が増えています。ここ数年、〈森林浴〉という言葉がshinrinyokuというタームでヨーロッパでも流行っています。都会の人は、食や自然について学びつつリラックスできる場を求めていると思うのです」


「MURA」の中央には川が流れ、水源も多い

 森に囲まれた菜園では、現在試験的にシソ、サツマイモ、枝豆、コーンなどが育てられている。敷地内には、かつて農家だった家が建っているが、こちらは多くの部屋数があるので、宿泊可能な施設にするべく改築中だ。この夏にはクラウドファンディングで資金を募ったが、それ以外にも、フランス人で日本の文化に興味がある建築家や写真家、SEなど様々な職種の人がボランティアを申し出てくれたのも嬉しくまた頼もしいことだったという。

 丸山さんの専門がお茶なので、将来的には森の中にお茶室を建てるつもりだが、最初のうちには野点(のだて)をしたり、お茶の木を植えたりもするとのこと。また、森の中の散歩道に山菜や椎茸などを植えて、訪問客が散策をしながら山菜摘みをし、それを使って料理をするワークショップなども行う予定。清水の流れる水源も多く、沢わさびを栽培すべく、現在わさび棚を整地している。将来的には、日本の企業や自治体などとの提携を募り、生産者や地域の美味しいもの、伝統技術なども伝える場所にしたいと考えているとのこと。今から来年春のオープンが楽しみだ。

◇初出=『ふらんす』2022年11月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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