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「アクチュアリテ 食」関口涼子

オリンピックを彩るシェフたち

 数年前の東京オリンピックの際に誰が選手村の料理を担当したか、覚えている人はいるだろうか。自国の文化を宣伝する何よりの機会をフランスが逃すはずもなく、スポーツの祭典に風味を添えるシェフたちの名前はかなり前から話題になっている。各国首相をはじめとした百数十人が参加する、ルーブル美術館で行われる7月25日のディナーを指揮するのはアラン・デュカス。デュカスは過去にも、フランソワ・オランドと習近平のディナーや、マクロンとドナルド・トランプのディナーでもシェフを務めている。
 一方、オリンピック開催期間、選手村で昼晩毎回300食提供される料理のメニュー構成を担当するのは、アマンディーヌ・シェニオ、アレクサンドル・マッツィア、アクラム・ベンナラだ。マルセイユに三つ星レストランAMを持つアレクサンドル・マッツィアは、自らもバスケットボール選手だったことがこのセレクションに有利に働いたのだと思われる。彼は「この仕事には2年前から関わっています。栄養学者、スポーツ医と協力しあい、オリンピックという枠の中で、質も栄養価も満足できる料理をあらゆる選手に提供できなければなりません。彼らの運動能力に悪影響を与えず、疲労回復を助けるような料理また、試合の前日に食べても影響を及ぼさないような軽いレシピである必要があります」と、インタビューで答えている。
 自分のレストランとビストロの他、美術館の料理監修なども手掛ける女性シェフのアマンディーヌ・シェニオは、選手に課せられた栄養バランスなどに気を付けるのは勿論、試合後、リラックスした時に楽しめる、誰にでも愛される味の料理を作りたいとテレビ局フランス3のインタビューで語る。
 パリだけではなく、香港、マニラ、バクーなどにもレストランを持つ、フランス生まれだがアルジェリアオリジンのアクラム・ベナラは、文化や宗教の違いなどを考慮し、ベジタリアンの料理を担当する。
 栄養バランス、カロリーなどにも考慮するのは当然だが、フランスにガストロノミありきだというところを見せることも必要だ。アレクサンドル・マッツィアは、自分の出身地であるマルセイユのテロワールを象徴する魚などを使いつつ、彼のスタイルを象徴するスパイス、香辛料、薫香などを使うだろうと話している。アマンディーヌ・シェニオは、世界中からやってくる選手が誰でも知っているクロワッサンにポーチドエッグやアーティチョーク、子羊のチーズを挟んだサンドイッチを提案する。
 シェフの活躍は料理界だけにとどまらない。バスク地方の聖火リレーには、コロンビア出身のシェフ、ホアン・アルバレズが参加する。ブルターニュ地方ではカンカルの二つ星シェフ、ユゴ・ロランジェが聖火をアンティル諸島まで運ぶ航海メンバーに選ばれた。オリンピックを通じて、シェフが社会で占める公的な地位の差異を感じる一件だ。

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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