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「アクチュアリテ 食」関口涼子

砂糖を使わない砂糖漬け!?

 パティスリーの世界に最もなくてはならない材料が砂糖だろう。ところが、菓子の王道であるフレンチ・パティスリーからどうやって砂糖をなくせるか考えたパティシエがいる。リヨン出身の33歳、すでに自著もあり、美食ガイド「ゴ・エ・ミヨ」の2020年最優秀賞を受賞したオーレリアン・リヴォワールがそのパティシエだ。彼は、フリュイ・コンフィ(果物の砂糖漬け)という、ヨーロッパの伝統的なコンフィズリ(砂糖菓子)の一品でありながら、最近は供されることの少なくなった分野に取り組んだ。砂糖漬けから砂糖を取り除けないか、というのだ。

 彼が働く三ツ星レストランのシェフ、ヤニック・アレノが、この使命をオーレリアンに与えたと私が聞いたのは2017年のことだった。「伝統的な製法には頼ることができず、本を読めば答えが書かれているわけではないので、開発中はかなり孤独に感じていました」と言うオーレリアンだが、それから3年以上かけて、先月やっと研究の成果が実った。

 彼の働く厨房は実験室にも似て、ただ美味しいデザートを作るだけではなく、様々な革新的な試みがなされている。フリュイ・コンフィにしても、500年近くメソッドが変わらなかったために忘れられかけていた、古典フランス料理の大事な一部をなす一品に新しい姿を与えたいというのが目的だ。

 既存のフリュイ・コンフィは、味が薄かったり熟れていない果物などに砂糖を加えて味を隠しているとオーレリアンは言う。詳しい製法はもちろん企業秘密だが、白樺の樹脂からとられたシロップに漬けてから、何段階にも分けて数か月にわたり果物に含まれる水分を抜いていく ことにより、果物のフレッシュさとアロマを驚くほど残しながら、自然な甘みはもちろん失わず、後味のキレがいい、今までに口にしたことのない素晴らしいコンフィが出来上がった。


オーレリアン・リヴォワールのフリュイ・コンフィ

 伝統的な保存法には塩漬け、砂糖漬け、乾燥、発酵などがあるが、健康を考えると、塩や砂糖の量が多すぎてはせっかくの楽しみも奪われてしまう。サッカローズのように人工甘味料を使うのでもなく、味に妥協をするのでもなく、安心してガストロノミーを楽しめるにはどうしたらいいのか。今後はチョコレートやアイス、製菓製法も基礎から考え直していきたいと言うこのパティシエが今後のフランスのパティスリーを大きく変えていくことは間違いないだろう。

◇初出=『ふらんす』2021年5月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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