オランプ達が切り拓いてきた道
Anne Etorre, Olympe : Une cuisinière libre
女性シェフの活躍が話題になることが多くなっているフランスだが、前の世代に女性シェフがいなかったわけではない。オランプは1973年に23歳でレストランを開店し、ガストロノミーガイドブック『ゴエミヨ』で初めて20点中18点を獲得し、1981年にはミシュランで星を獲った最年少の女性シェフである。彼女はまたテレビやラジオでの料理番組生放送を初めて行なった女性シェフでもあり、『フィガロ』のレシピページを長い間担当していた。30代にして時の人であり、その後も料理界に貢献し続けたオランプだが、自分のレストランをビジネスとして展開したり商品開発で自分の名を売ったりするよりも自由な料理人であり続けることを選んだことで、フレンチガストロノミー界では独自の立ち位置にいる。
そのオランプの業績を辿り、彼女の料理の世界を紹介しようとこの秋アシェット社から出版されたのが、『オランプ 自由な女性料理人』だ。
まだ女性シェフがガストロノミー界にほとんど存在しなかった1980年代初頭、ポール・ボキューズやアラン・サンドランスなどの重鎮に混じってのテレビの討論番組で、彼女は臆することなく、それらの星つきシェフたちのレストランに別の女性の名前で履歴書を送ったが、全てから断られたと暴露して男性シェフたちを困惑させたという。いかにも痛快なエピソードではないだろうか。当時の写真での彼女は、髪をぱっつりとボブにカットし、ティエリー・ミュグレーのパンプスを厨房でも履き、今見ても粋な雰囲気を醸し出していて、当時のパリのお客が男女問わず夢中になったのもよくわかるカリスマ性に満ちている。
この本には彼女の50年間にわたるレシピが掲載されているのだが、野菜のテリーヌ、鴨のラヴィオリ・ブロッコリーソース、栗の粉のガレットにポシェした卵を添えた一品や、エストラゴンのソルベ、いちじくの葉の香りのアイスクリームなど、全く色褪せることのないレシピばかりだ。これらのレシピからは、彼女の料理のスタイル自体がそもそも素材重視で、香りや風味高い材料を忍ばせることによって、重たいバターや油などに頼りすぎずにすんでいたのだろうと想像できる。彼女のオリジンの一部であるイタリア料理への愛もあるのかもしれない。
若い女性シェフの応援ももちろん大事なことだが、前の世代が、オランプのように多方面に活躍し、女性料理人の場所を獲得してきたことの重要性は忘れられるべきではない。そういう意味でも、この本の出版には心からの拍手を送りたい。