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「アクチュアリテ 食」関口涼子

パリで急増中のルーフトップバー

 夏になるとあちこちで見られるようになったのは何といってもルーフトップバー。ここ数年、ニューヨークスタイルにインスパイヤされたとも言えるこの現象が一気に目につくようになった。企業もまたこの流行に乗り遅れまじと、屋上を利用してイベントやレセプションを企画したり、商品のプレゼンテーションなどに利用することが増えた。ルーフトップレンタル会社も現れ、いまや猫も杓子もルーフトップといった具合だ。

 考えてみたらなぜこれまでそれほどルーフトップがなかったかと思われるのだが、夏が短く、7、8月はヴァカンスで誰もいなくなるパリでは、屋上の活用にさして思いが及ばなかったのかもしれない。冬は仕切りを付けて暖房できる施設などができたことで、ルーフトップの使用可能期間は一気に広がった。

 エッフェル塔を臨むシャングリ・ラホテルのテラスやセーヌ河畔のルーフトップ、ムーラン・ルージュの屋上のように観光気分を堪能できる場所や、ソフトドリンクが2.5ユーロで飲める、サンマルタン運河近くのユースホステル屋上のバーもあれば、ミネラルウォーターを頼んでも15ユーロするが最高の眺めを独り占めできるラファエルホテルのバーまで、あらゆる地区に、様々な年齢層や客層に合わせたバーが存在している。最新の傾向は、マレ地区や東駅、メニルモンタンなど、30代の感度のいい人たちが集まる地区にある、元工場などの最上階を利用しているバーだろう。到底お洒落なバーがあるとは思えない工業的な雰囲気の建物に入り、かつては従業員用であったのだろう、そっけないエレベータを登ったところに突然お洒落なバーが現れる意外性が受けているようだ。

 カクテルバーを備えているところもあれば、ワインとビール、シャルキュトリの盛り合わせくらいの簡単なしつらえのところまで、メニューは場所によって様々。人気のあるバーは座る場所を見つけるのも難しいくらいだが、その活気を感じるのもまた愉しみの一つなのだろう。

 これらのルーフトップバー、最も気持ちがいいのは6、7階くらいの高さ。そう考えると、高層建築が並ぶ都市より、パリのような街の方がルーフトップを楽しめるのかもしれない。9月くらいまでは気持ちのいい陽気が続くパリ、地元っこらしい雰囲気を味わうために一度は訪れてみてほしい。

◇初出=『ふらんす』2019年9月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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