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「アクチュアリテ 食」関口涼子

缶詰食品の楽しみ方

 日本は魚介類の缶詰生産世界第3位。災害に備えて缶詰を備えている人も多く、世界有数の缶詰消費国でもある。そんな国からフランスに行くと、いかにも愛らしいデザインの缶詰に出会い、心躍らせることもあるのではないだろうか。お土産にも最適なフランスの缶詰だが、それだけではない、独特の缶詰の消費方法がある。それは、缶詰の熟成である。

 理論的には、開封しなければ半永久的に雑菌は繁殖しないという缶詰。筆者もあるフランスの雑誌の企画で、サーディン缶の食べ比べをした時に、10年以上前の缶詰が新しいものよりずっとフレッシュに感じられおいしかったのに驚愕した記憶がある。

 特にサーディン缶詰を対象に行われる熟成は、言ってしまえば缶詰を「放っておく」だけ。とはいえ、直射日光は避け、半年ごとに缶の上下をひっくり返すことがポイントだ。時間を置くことで味が熟れ、まろやかになる。また、水分も抜けることで身がしまり、歯触りがよくなる。逆に、作りたての缶詰は、味がとんがっていて全く美味しくないのだそうで、最低でも半年は寝かせる必要があるという。

 それ以外にも気をつけることは、トマトソースや野菜ソースなど、余計な材料が入っていない、シンプルな魚のオイル漬けや水煮を選ぶこと、良質な素材が使われている缶詰を選ぶこと(フランスで出ている缶詰文化専門ムック(!)、appertによる)。

 最初から熟成された缶詰を商品化しているメーカーもある。フランス語では“Millesime”、ヴィンテージの意。主にワインの収穫年を指す時に使われる言葉だが、フランスでは、サーディンのオイル缶を熟成したものにも使われる。フランス人にとってのサーディン缶は日本人と鯖缶と同じくらい親しみ深いもの。「サーディン缶詰コレクター」を意味する“puxisardinophile”, “clupéidophile”という単語が存在するくらいなのだから!

 さすがに瓶詰めの祖、ニコラ・アペール(1804年に瓶詰め保存食品の製造に成功。ナポレオンの軍用保存技術の公募に当選する)を生んだ国だけあって、缶詰との長い付き合い方を知っている。フードロスが問題になっている昨今、缶詰に対しては、賞味期限に目くじらを立てず、楽しみながら缶詰を「育てて」みてはいかがだろうか。

◇初出=『ふらんす』2019年10月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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