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「アクチュアリテ 食」関口涼子

消える「ヴィーガンステーキ」の名称

 プラントベースで肉や肉加工製品を模した商品を見かけることが近年一気に増えてきた。ベジタリアンやヴィーガンの消費者を主にターゲットにしたものだが、そうなるとそれに反対する業者も出てくる。「ヴィーガンステーキ」や「ベジタリアンジャンボン」などの名称は、定期的に議論の対象になってきたが、この2月に出された法令により、野菜や豆を原料としながら食肉を思わせる名称を商品につけることが禁止されることになった。この法令は5月末から実施に移され、従わない場合には罰金が課される。
 すでにかなり前から、食肉業界はこの法令の実施を求めてきた。紛らわしい名称により消費者が混乱しないようにという理由によるもので、2020年には商品名表記に関する法律にこの条項が加えられたが、2022年に国務院がこれに異議を唱えたため、政府はこの条項を吟味する必要にかられていた。
 今回出された法令によると、ヒレ、ビフテキ、ジャンボンなど、食肉を具体的に表す名称をプラントベースの商品に使用することが禁じられる。また、ベーコン、チョリゾ、パストラミ、パテなど、食肉加工食品などの名称については、プラントベースの素材が一定以上(数%)を超えない場合にのみ使用することが許される。つまり、完全にプラントベースだけの場合、食肉加工品の名称も使えないということだ。
 かなり厳格に規定されているが、この決定には多くの批判もある。禁止の対象になるのはフランス製の商品だけで、国外から輸入された製品に関してはその限りではないからだ。欧州の他の国で作られた商品にベジタブルベーコンなどの名称をつけて販売することが可能なのであれば、実際にはこの法令は意味をなさないのではという意見も当然ながら出ている。
 今回の法令は食肉業界のロビイングがあってのことだが、菜食やヴィーガニズムを実践しているのに、どうして肉やチーズなど、自分が口に入れることをやめた食べ物の名称をあえてつけるのかという議論は常に存在した。その反論としては、思想的な理由で菜食やヴィーガニズムを選んだ人の多くは動物性プロテインを食して育ってきたために、食習慣に由来する肉やチーズの味への嗜好は存在し、慣れ親しんだステーキやチーズなどに味や形を似せた食品を消費することでそれを宥めているというものだ。
 菜食第一世代にとってそれまでに食べていた肉や乳製品の味が懐かしいというのは理解できる。また、完全菜食主義ではなくても、ベジバーガーやアーモンドミルクから作ったフロマージュもどきなどを時々食べることから始めて次第に動物性プロテインを減らしていく人もいるだろう。
 そう考えると、今回の法令が本当に意義があるのか、また意味をなすのかという疑問は残る。今後この決定がどのように展開していくかを観察する必要があり、欧州諸国の反応も待たれるところだ。

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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