長い冬がつくりだす、ケベック料理
カナダのケベック料理というと、フランス料理の影響が強い印象があるが、それだけではない。半年続く長い冬を乗り切るために、多くの料理人が心を砕いている。3人のシェフに、ケベック料理と季節の関係について話を聞く機会を得た。
長い間カナダのベストレストラン1位の地位を守っていたモントリオールのレストラン、「Toqué !」のシェフ、ノルマン・ラプリーズは、自分がシェフとして働き始めた時には、多くの店が、冷凍食材を使ってフランス本国のレシピを再現していたと言う。「フランス料理を作っていなければ、ガストロノミのシェフとは認められなかったからです」。彼は、フランスの地方レストランで働いていた時に素材の重要さに目覚め、カナダに戻ってから地元の生産者たちと共同で「cuisine de marché(市場の料理)」作りを目指す。このレストランでは、夏は店のテラスを利用して野菜栽培をし、冬に向けて、毎年自家製の保存野菜を2500リットル準備する。
店のテラスで自家栽培するラプリーズ氏
カナダ歴史地区にある「Auberge Saint Antoine」は、対岸にあるオルレアン島に有機農法の自家菜園を持ち、養蜂も行っている。他の店では出ない珍しい野菜を栽培できるだけが理由ではない。フレッシュな野菜を地元で供給できる期間を可能な限り長びかせるため、寒さに強く、長期保存が可能な品種の栽培を試みているのだ。
マサウィッピ湖畔にある「Manoir Hovey」のシェフ、フランシス・ヴォルフは、リンゴを冬の終わりまであえて枝に残しておく。凍ったり溶けたりを繰り返したリンゴは、硬く、黒ずんで調理は難しくなるが、香りは驚くほど凝縮される。そのリンゴのジャムを使い夏に供されるデザートは、複数の季節を生きたリンゴならではの深みに満ちている。この店では、アメリカインディアンに親しい地元の野草を積極的に取り入れてもいる。
日本やフランスのようにバランスの良い四季に恵まれた国では、「季節の食材」を使った料理が前提とされがちだが、世界には、季節が1つ、2つだったり、長い夏や冬を過ごさなければならない地域も少なくない。ケベックの料理は、厳しく長い冬と単に戦うのではなく、寒さと折り合いをつけ、冬が作り出す味を探求しているように思われた。
◇初出=『ふらんす』2018年9月号