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「アクチュアリテ 食」関口涼子

デュカスが仕掛けるヴィーガンバーガー


デュカスがプロデュースするヴィーガン・バーガー
©︎ Pierre Lucet

 この数年間、フランスでもヴィーガン料理を食べられる場所が少しずつ増えてきたが、その傾向を加速させるかもしれない動きが現れた。フランス料理の帝王アラン・デュカスが、ヴィーガンバーガーの店、Burgal(ブルガル)を4月8日にオープンしたのだ。バスティーユ広場に面した、わずか8平米のキオスクのスタンドで販売されるバーガーは、完全にヴィーガン仕様。バンズには卵や乳製品を使わず、中身のパテは人参や玉ねぎ、キノアやレンズ豆、ズッキーニや根菜類など様々な素材を使ったガレット仕立てで、そこにナスのピューレ、植物由来のマヨネーズ、ピクルスが挟まっている。ソースは、スパイシー、ハーブ、野菜ソースから選べる。もちろん材料はそのほとんどがフランス産。ひよこ豆のチップス、三種類の野菜のチップスは別売り。ドリンク込みのセットは12,5ユーロ(約1600円)と安くはないが、パリでは定食屋でもランチがすぐに15ユーロを超えてしまうことを考えれば、法外な値段というわけではない。開店してすぐに話題になったこのバーガー店、1店舗目に成功したら、今後もスタンドでの展開をしていく予定なのだという。

 デュカスは、レストランや料理学校、料理出版社を経営するだけではなく、レストランにしてもガストロノミー、ビストロから野菜専門店、店舗もチョコレートからアイスクリーム専門店と手広く展開をしている。が、人に先んじるというよりは、どの場合も、その現象が流行り出した直後に彼が取り上げるという印象がある。とはいえ、それは人に遅れをとっているためではない。バーガーにしても、デュカスは今回の原型となる野菜バーガーをすでに2019年のイベントで発表し、好評を博している。彼ならではの組織力を生かし、これから話題になりそうな素材やトピックは逃さず並行してプロジェクトを進め、ちょうど機運が高まったタイミングで自分の事業を稼働させる術に長けているのだろう。ある現象が食業界の狭い世界で留まるのか、より一般の現象として広がっていくのか、そのバロメーターになる地点にデュカスがいる、という感じなのだ。デュカスの開店するお店はどれも成功しているように思われるが、それは、彼が先駆者であるよりは、ある現象にお墨付きをつける立ち位置にあるからなのだろう。

 今回も、デュカスがヴィーガンバーガー店を出すというニュースを聞いて、皆が「ああ、デュカスまでがヴィーガンを取り上げるのなら、かなりこの動きは人口に膾炙(かいしゃ)しているのだな」と考えている。フランスのべジタリアン人口はまだ2,2パーセントだが、代用肉を作る企業は増えているし、チェーン店「バーガーキング」は昨年ベジタリアンバーガーVeggie Kingを売り出した。デュカスのバーガーが、来るべきヴィーガンバーガー・ブームの先駆けとなる可能性はかなり高そうだ。

◇初出=『ふらんす』2022年7月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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