激化するヴィーガニズム
以前、ヴィーガン(動物由来の製品の使用を拒む生活様式)のフランスでの台頭についてこの欄で紹介したことがあったが、この半年ほど、その動きが急進的になっている。« militant(活動家) »と呼ばれるヴィーガンの中には、過激な行動に出る人たちが出ているのだ。
肉屋の店頭のガラスが割られたり、店先に血糊を撒かれたり、店頭に「殺し屋」などの侮辱的なメッセージが書かれる事件が相次ぐ中、フランス食肉協会は暴力行為からの保護を求める公開書簡を自治体や内務省に送っている。動物の権利を主張する団体の中には、食肉解体場への不法侵入を行うケースもあり、9月には食肉解体場の放火も発生した。昨年3月、フランス南部のスーパーマーケットでのイスラーム過激派によるテロ事件で、食肉業者の男性が犠牲になり射殺された際、「暗殺者がテロリストに殺されてもいささかの同情にも値しない」とのコメントをウェブ上に流したヴィーガン活動家は、テロ擁護の容疑で執行猶予付きの禁錮判決を受けている。
肉屋ばかりではなく、比較的数は少ないものの、チーズ屋なども、乳牛を酷使しているとの理由で、ショーウィンドーを壊されるなどの被害に遭っている。魚屋襲撃の例もある。
こうした攻撃は2017年までは単発的にしか見られなかったが、徐々に顕著な現象になっており、この1年では数十件にのぼる被害が報告されているという。
これらの過激な運動に対しては、ヴィーガンの間でも当然批判はある。同時に、過激派の行動は、動物の権利を主張しても一向に聞き入れられない事への絶望感の表れだと理解を示す向きもある。どちらにしても、肉食や屠畜に反発する声が次第に高まっているのは事実だろう。SNS上で何気なくアップした肉料理や尾頭付きの魚料理の写真に対しヴィーガンから批判を受けた例も聞くし、筆者自身も同様の経験をしている。
これについては、ヴィーガンを単なる食事療法だと考えていると理解しにくいだろう。ヴィーガニズム、特にエシカル・ヴィーガニズムは思想であり、彼らは最終的には、あらゆる人間が動物の使役に終止符を打つことを目的としている。人間だけでなく、野生の肉食動物にも理想的には肉食をやめさせるべきだと考える者もいる。
フランス人は伝統的に友人や家族を自宅に呼んで食事を振舞ってきたが、今日では多様な食事、生活様式を持つ人が出てきている。思想信条を異にする複数の人間が同じ食卓につく光景は、今後減っていくのだろうか。
◇初出=『ふらんす』2019年2月号