食料価格の高騰が続くフランス
食料価格の高騰は日本だけでなくフランスでも勢いが止まらず、多くの家庭の食生活に影響を及ぼしている。母子家庭や失業者だけでなく、1人暮らしの大学生も食費を切り詰めなければならない状況にあることがしばしば報道される。昨年の統計によると、35%のフランス人が経済的な理由により1日3回食事を摂れず、子どもを持つフランス人の36%が、子どもに食事を優先し自分は食事を抜くことがあると答えている。数年前からchèque alimentaire(食の小切手)の導入がマクロンによって提案されていたが、その後このシステムはパリ北部のセーヌ・サンドニ地方から実験的に導入されることとなった。
具体的には、生活保護受給者、奨学金受給の学生、障がい者手帳保持者、年金受給額の低い高齢者、住居補助対象にある家庭、妊娠中の女性などが対象とされている。小切手は、大型のスーパーマーケットだけではなく、地域の商業を保護するため、小売店でも使えることになっている。金額は、月に50ユーロを半年間受給するというもの。ここ数年のインフレに対応し、低収入家庭にもバランスの良い食生活を送れるようにすることを目的としている。
このシステムが機能することが証明された場合、今後、全国で適応可能となり、金額は1世帯あたり100ユーロ、子ども1人につき50ユーロ追加という予定になっている。
現在、こういった対策は主に民間のアソシエーションや慈善団体によって行われており、赤十字やフードバンクの他、地方の団体が貧困家庭に食料品を配布したり、生活困窮者を対象に、食料を廉価に購入できる食料品店を開くなどしている。炊き出しを行っている「心のレストラン」などもあるが、小切手という形で、各家庭がそれぞれの状況に応じて自由に食品を選べる状況は少ない。食のあり様は人それぞれだし、押し付けのものではなく、自分に喜びをもたらす食べ物にアクセスできることで生活の質が精神的に向上することの意義は、過小評価すべきでないと思う。
貧富の差が確実に広がっているフランス。例えば文化関係では、今年に入ってから文化予算を突然0%近くまで切った地方や、美術学校を閉校した地方もある。しかも予算削減の中そういった政策が好意的に受け入れられているともいう。数年前からあらゆる階級の若者に文化へのアクセスを助けようと「文化パスポート」という名前の小切手が配布されており、このパスの団体用を使って様々な文化活動やワークショップが行われていたが、2月初旬に突然停止となった。この食の小切手も、2000年に検討されはじめてから遅れに遅れ、現在に至ってもいまだ全国での導入にはいたっていない。国民が文化的で健康な生活を送るための最低限の措置に意義を見出すフランスであり続けてくれることを望みたい。