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「アクチュアリテ 食」関口涼子

2017年6月号 三つ星シェフによる、アートと食の競演

三つ星シェフによる、アートと食の競演

 近年、料理の分野がメディアで脚光をあびるようになり、料理とデザイン、建築、音楽など、様々なジャンルとの出会いを狙ったイベントをあちこちで見かけるようになったが、今回の企画はかなり斬新。三つ星レストランシェフ、アラン・パッサールAlain Passardがコミッショナーとなった展示が、4月からリールの美術館、パレ・デ・ボザールPalais des Beaux-Artsで行われている。これは、この美術館が行っている「オープンミュージアム」という企画で、毎回、異なる分野で活躍する人を招聘し、テーマを決めて美術館のコレクションから選んだ作品を中心に展覧会を構成するというもの。

 パッサールは、自分でもコラージュやブロンズ作品などを製作していることで知られている。美術への関心が深いことから、今回コミッショナーとして選ばれたのだろう。野菜の魅力を前面に出した料理で知られるシェフならではのアイディア、「五感の庭」を散歩するというコンセプトのもと、美術館のコレクション作品に混じって、彼の料理のヴィデオ、ブロンズやコラージュ作品、現代美術アーティストのインスタレーション、ピュイフォルカの食器コレクションなどが賑やかに展示されている。

 もともと、ガストロノミに器やテーブルセッティングなどの装飾工芸は欠かせないが、料理がウェブに上げられる写真で評価される現在、ガストロノミで勝負をしていくシェフには、料理そのものの美しさも含め、いっそう個性のある美的感覚が求められている。そういう意味では、今回のように美術と料理を結びつけた催しは、異分野のコラボレーションというより、元来ガストロノミに内在する要素を顕在化させたと言ってもいいだろう。

 会期中には、パフォーマンス、ファーマーズマーケット、パン職人のワークショップ、食に関するテキストの朗読会、パッサール自身のトークショーなど、多彩なイべントが予定されている。

 展覧会は7月16日までだから、この時期にフランスに行く機会がある人は、この美術館を訪ねてみてはどうだろう。パリからリールはTGVで1時間、列車の本数も多いので 、展覧会を観て食事をしても、十分日帰り可能。 

 

◇初出=『ふらんす』2017年6月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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