2018年3月号 ヴェジタリアン、ヴィーガンの台頭
フランスでは、アメリカなどと比べ、長い間、菜食主義の浸透が比較的緩やかだった。フランスのレストランでヴェジタリアンメニューを頼んでも、生野菜かポテトフライくらいしかチョイスがないことに失望した人も多いと思う。
菜食主義に抵抗してきたとも言えるこの国で、しかし最近は新しい傾向が表れている。ヴェジタリアン料理、そしてヴィーガンvéganの急速な台頭だ。
本屋に行っても、料理書の平積みコーナーの平均4分の1はグリーンを基調にした表紙が占めるほどで、簡単ヴィーガンレシピから子供のための野菜本、ヴィーガンのワイン本までヴァラエティ豊かだ。
書店に並ぶ、ヴィーガン、ヴェジタリアン関連書籍
この傾向は、ここ10年足らずのことで、流行にすぐに飛びつくことはないが、いざ変わるとなると急激に極端なところまでいってしまうのは、さすがフランス革命精神を継承しているというべきか。
ヴィーガニスムとは、動物製品の使用を行わない生活様式で、肉食はおろか、卵、乳製品、蜂蜜の摂取もしない人たちもいる。また、単なる個人的な生活様式ではなく、動物と人間の間に区別を設けず(antispécisme)、最終的には社会全体が動物の権利を尊重することを主張している。動物の尊厳を主張するアソシエーション「L214」を始めとする近年のと畜場廃止の運動などは、こういった思想と深く関わっていると言えるだろう。
また、ヴィーガンまでいかなくても、肉や魚を時々は食べるけれど通常はヴェジタリアンだという人たち(flexitarien)もいるし、先月書いたオリエンタル料理の流行なども、野菜を主体にした料理の幅が広いことが理由にあると思われる。
そんな中で、あえてテキサスステーキやグリル料理専門の店ができたり、肉の捌(さば)き方、調理の仕方だけに徹底的にこだわった本や『beef』と冠した雑誌が出版されるなど、カウンター的な動きもあるのがフランス的だとも言えるだろう。肉以外でも、最近避けられる傾向にあるGras(脂肪)、Alcool(アルコール)、Gluten(グルテン)だけを扱っていると謳う店「GAG」などもあり、百家争鳴を極めている。
これが単なるブームに終わるのか新しいフランスの食になるのか、しばらくは肉をめぐる議論やヴェジタリアン、ヴィーガン関連の出版が止まる気配はなさそうだ。
◇初出=『ふらんす』2018年3月号