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「アクチュアリテ 食」関口涼子

パリのおしゃれな食べ放題レストラン

 パリ18区にある、こぢんまりとしたおしゃれなパン屋だが、ここがただのパン屋ではないと知っている人は店の奥まで入り、秘密の部屋に通じる通路を抜ける。そこには自然光の入る空間が広がっている。ここは、BOULOM(= BOUlangerie où LʼOn Mange「食事ができるパン屋」)という名のレストラン。この店の特徴は、前菜、主菜からチーズ、デザートまでがすべて食べ放題であること。


新しいバイキングスタイルで人気のBOULOM

 特に、主菜はパンを焼き終わった後のパン釜で調理されることが特徴だ。煮込み料理や、パイ生地で包んだ肉や魚などをカウンターで切り分けてくれるほか、グリルコーナーもあり、焼きたてのイワシが各テーブルに回ってくる。デザートは15種類ほどあるほか、クレープを目の前でグラン・マルニエでフランベしてくれるなど、単に棚に陳列されているものを取る、という味気ない印象を与えないための賢明な配慮がなされている。

 昼間は29ユーロ、夜は39ユーロと決して安くはない。ワインを頼めば簡単に50ユーロは超える。それでいて広い店内はいつでもほぼ満席になる。

 このコンセプトは、腹を満たせばよいという安食堂のセルフサービスよりむしろ、昨今流行りのブランチに想を得ているのだと思われる。友人同士がそれぞれ都合の良い時間に集まり、好きなものを適量食する。子ども連れでも店側が嫌な顔をしない(子どもは年齢に合わせ、8歳なら8ユーロ払えばよい)。食事の質は保証される必要があるが、料理が中心ではなく、何よりも心地よい時間を過ごしたい客層のためにこういったレストランは構想されたのだろう。

 また、お仕着せではなく、自分の好きなものを少量ずつ食べたい人たちにもこのシステムは合っているようで、30代の友人同士のグループに混じって、初老のカップルや、一人でゆっくり食事をとる客も見かける。  

 グループでないと予約はできないが、20時前に入ればほぼ席はあるし、メニューとにらめっこしなくても、目の前にある料理をそのまま選べるのだから、言葉に自信がない旅行客にも便利だ。パリジャンが賑やかに食事を楽しんでいる風景を眺めながら、自分たちも気ままに料理を選べるのは、ちょっと特別な経験になるのではないか。

◇初出=『ふらんす』2019年1月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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