労働環境の改善へ向けた一歩
レストランにおける女性の雇用を促進するのも目的のひとつ
料理界での厳しい労働条件、それと切っても切れないハラスメントの問題についても、フランスではここ10年ほど指摘され続けてきた。しかし先月、ガストロノミーレストランのスターシェフが暴力行為で、また、ある有名な雑誌が毎年授与するベストレストラン賞の候補者が、賞発表の前日にモラルハラスメントで訴えられ、解決にはまだ程遠いことが明らかになった。食のジャーナリスト、ノラ・ブアズイニによる『厨房でのヴァイオレンスーフランスならではのタブー(Violences en cuisine, une omerta à la française)』が刊行され、料理界をとりまく環境が話題になったばかりだった。
そんななか、若いシェフを中心とした団体Restaure(restaurantとの掛詞で「修復しよう、立て直そう」という意味)が作られた。今までにも職場環境の改善に関しては、主に女性によるキッチンでのセクハラ告発を目的としたアソシエーションなどができていたが、今回は、問題をより大きく捉え、皆にとって働きやすい職場づくりを目指しているのが特徴だ。男性も女性も自分の場所を見つけられる職場づくり、インクルーシブな環境、さらにはよりエコロジックでサステナブルな料理、より多くの人に健康な食料を提供できる社会を目指すなど、射程を広く取り、団体立ち上げにあたっての声明にはシェフ、料理ジャーナリスト他職業界に関わる多くの人が署名をしている。
今までのアソシエーションと異なるのは、「ムーブメント」という名がつけられているように、現存するアソシエーション同士の連帯を促進し、レストランや料理人とつなぐ役割を担っていることだ。参加メンバーとなっているアソシエーションは21にのぼり、それぞれ、食育、移民の料理人養成、エコロジーなレストランづくり、ゼロウェイスト運動、低収入家庭への食料供給などを目指して活動をしている。「レストール」のミッションとしてはたとえば、料理研修を通じて受刑者の社会復帰を助けるアソシエーションと彼らを受け入れるレストランをつなげたり、固有のキッチンを持たないさまざまなアソシエーションに場所を提供したり、要支援世帯を中心に料理教室を行うアソシエーションを手伝うシェフを募集したり、環境に配慮したレストランづくりや職場のハラスメントを防ぐためのセミナーを企画する団体と料理人をつなげることなどがある。
アソシエーション同士をまとめる大きな動きが起こりつつあるところに、レストラン改革が新しいステージに入ったことが感じられる。食業界に従事するあらゆる人々が人間的な環境で料理できる日が来ることを望みたい。