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「アクチュアリテ 食」関口涼子

いま話題の現役女子高生パティシエ

 料理関係のテレビ番組は、そろそろ飽きられる頃だと毎年言われ続けながらも続いている。もっとも有名なのは、若き料理人たちが毎回テーマを与えられトーナメント形式で争う「トップシェフ」だが、「ル・メイユール・パティシエ(パティシエ・ナンバーワン)」もすでに10年続く長寿番組だ。こちらはお菓子の選手権だが、「トップシェフ」の参加者がプロのシェフがほとんどなのに対し、アマチュアの、お菓子作りが好きな人たちが応募するのが特徴だ。様々な技術、古典菓子に関する知識、オリジナリティなど、多様な点から応募者の能力が審査される。アマチュアが対象であるためか、審査員も、候補者を勇気付けるようなコメントが多く、和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気の番組作りになっている。メイン審査員である、スターパティシエ、シリル・リニャックの演じる、頼りになるお兄さんという役どころ、70代のお菓子研究家メルコットの柔和な人柄も大きいだろう。

 この番組で去年最優秀賞をとったのが、わずか16歳の現役女子高校生のモードだ。彼女のインスタグラムのアカウントはすでに14万人以上にフォローされ、今年の1月に出版された彼女のレシピ本は、数か月経った現在もなお、ベストセラーの地位を保っている。


ベストセラーとなった現役女子高生のレシピ本

 高校生の時点ですでにメディアで注目される賞を取ったことで、若きパティシエとしての道を歩き出すかと思われたモードだが、エリゼ宮のパティシエからの研修の誘いを断ったという。高校を卒業するまでは学業に専念したいというのがその理由だった。大統領のためにお菓子を作るポストを辞退したというので、彼女はさらに注目を浴びた。

 長い間、料理業界に入るのは、親の家業を継ぐためか、学業を続ける成績に達していないからという場合が多かった。料理人のメディア露出が増えたこの十数年間でその傾向は変わり、シェフやパティシエはスターのようにお金を稼げて世界中を飛び回れる、華やかな職業だと若者たちは考えるようになった。そして料理番組ブームが一段落した今、若者たちは意外と冷静にこの業界を見ているのかもしれない。料理が今のようにメディア化されたことを憂える人たちも多いが、まさにこのようなコンテストが長寿番組化したおかげで、若い世代は、料理業界を、消極的選択の結果でも、スターシステムへの道でもなく、現実に近いところで捉えているのかもしれない。

◇初出=『ふらんす』2022年6月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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