2017年5月号 「農業を見本市から解放しよう!」
「農業を見本市から解放しよう!」
毎年2月末から3月初旬にかけて行なわれる農業見本市Salon de lʼAgricultureは、春の訪れを感じるこの季節、家族連れの見学者を中心に9日間で60万人以上の入場数を誇る大々的なイべントだ。しかしこれは単なる見本市ではなく、様々な政治家がそれぞれ、国の政策における農業の重要性をアピールする機会となっている。今年のように、大統領選挙がある年はなおさらで、要人の視察が引きも切らない。そして近年では、この農業見本市の時期、カウンター的な動きも盛り上がりつつある。
サロン初日にぶつけてパリ3区で行われたイベント「農業を見本市から解放しよう!」は、既存の大規模農業に代わる道を模索する目的で開催された。農家やハム・チーズ・ワインなどの生産者、研究者、シェフ、アーティストや知識人たちの参加するシンポジウム、講演会、また映画上映などが、様々な食のブースが立ち並ぶなか賑やかに行われ、この機会に、哲学者ミシェル・セールのイニシアティヴのもと「農業とエコロジー例外のためのマニフェスト」も発表された。これはフランスが文化に対して適用している政策「文化例外」を、農業と食料品にも当てはめることを要求するものだが、それはすでにある補助金や貿易保護などの措置を意味するのではなく、自然保護、そして、あらゆる人の元に良質かつ十分な食料が渡ることを目標としている。
また、やはり2月末、シェフのオリヴィエ・ローランジェやミシェル・ブラ、ル・モンド紙ジャーナリストのカミーユ・ラブロ、ガストロノミウェブマガジン「アタビュラ」編集長フランク・ピネ=ラバルスト他70人以上の食に関わる文化人が、共同で大統領選候補者たちに向けての声明を発表した。「良き食bien mangerの権利を求める声明」と名付けられたこの声明では、誰もが健全な食へアクセスできるべきだとし、一般の署名も呼びかけている。
フランスの政治における農業セクターの重要性はよく知られているが、農業関係者の中でも、個人小規模経営者、有機農法の生産者などの声が、まだ小さいながらも聞こえるようになり、無視できない位置を占めつつある。政治家が「重要視」すべき「農業」、その多様化は今後も広がっていくだろう。
◇初出=『ふらんす』2017年5月号