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「アクチュアリテ 食」関口涼子

発酵食に特化したデリカテッセン

 最初はガストロノミ界が火付け役だった発酵ブームは、現在その裾野を広げつつあるようだ。発酵食に特化したデリショップ「SURI」(フランス語で「発酵によって酸味を帯びたもの」という意味)はその好例だろう。

 フランス料理の発酵食品と言ってもあまりピンとこないかもしれないが、実は多くの食材が発酵の過程を経ている。最もベーシックなサンドイッチにしても、バゲット、バター、ハム、チーズ、すべてが発酵食品だし、挟まれているピクルスも、酢漬けではなく、伝統的には発酵させる。飲み物にしても、コーヒー、ワイン、ビール、シードルと、発酵食品には事欠かない。

 この店では、サンドイッチ、キッシュ、スープやサラダにデザートと、一見普通のカフェと変わりないメニューを良心的な値段で提供している。実際、発酵食専門店だと知らずに入る人も多いという。

 「その方がいいんです。発酵食だと構える必要はない。パンにしてもケーキにしても、自然発酵の美味しさを食べて感じてもらうのが目的ですから」と店の企画者マリー=クレール・フレデリックは言う。彼女は食の歴史、特に発酵食を専門とするジャーナリストで、発酵好きが高じて店を開くに至った。料理人である彼女の息子がメニューを構成している。

 キッシュにも自然発酵のキャベツが入っていたり、ひよこ豆のペーストもあらかじめ発酵させた豆を使い、デザートのリンゴも切ってからケフィアにつけて色止めをするなど、すべての料理に何らかの発酵のプロセスが加えられている。

 飲み物のリストも興味深い。ケフィアや、様々なフルーツジュースをさらにケフィアで発酵させたもの、また、ボザ(バルカン半島や中央アジアで飲まれている、麦芽を用いた伝統的な発酵飲料)などもある。どれも甘さ控えめで発酵飲料特有の爽やかな酸味が心地良い。

 週末にはブランチが楽しめるほか、料理教室も開かれている(店のサイトからあらかじめ参加登録可能)。観光客もよく訪れるモントルグイユ地区のすぐ近くでもあるので、ランチやお茶の時間に立ち寄ってみたらいかがだろうか。
発酵文化サイト http://nicrunicuit.com


デリショップのSURIのメニュー

SURI Restaurant & Déli
108, rue Réaumur 75002 Paris(年中無休)

◇初出=『ふらんす』2019年3月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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