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「アクチュアリテ 食」関口涼子

展覧会「我食べる、故に我あり」@パリ


Liu Bolin, Hiding in the city, Water Crisis , 2013. © courtesy Galerie Paris-Beijing

 この欄では今までに何回も、フランス各地で行われた、食に関する展覧会の紹介をしている。それだけこの国が食に対して抱いている関心の広さと深さを表すと言えるが、昨年の10月から新たに「我食べる、故に我あり」と題した展覧会がパリの人類博物館で開催中だ。展覧会は、①体と食物、②食文化、③自然を消費する、と3つのパートに分かれ、各パートが副次的なテーマを包含している。

 肉食の是非、先史時代の食(この辺りは人類博物館の面目躍如か)、女性と男性がそれぞれ作り上げるべきとされてきた体、食と聖性の関係、社会性を象徴するものとしてのテーブルマナーや食習慣、食とアイデンティティ、食とアート、食料を手に入れるための多様な方法(狩猟採集、漁撈、牧畜、農耕、半栽培)、昆虫食、未来の食など、実に盛りだくさんなテーマが取り上げられている。

 食に関わる思想的な問題を展示空間にどのように展開するかは常に悩ましい問題だが、食とアートのテーマ1つを取っても、食における芸術的なファクターの問題、フードアート、そして、そもそも食という分野は他の芸術分野と同じようにアートとみなされるべきなのか、という3つの議論に分け、それぞれにふさわしい作品やイメージを展示するなど、美術作品やヴィジュアルだけに頼り切ってしまわない、人類博物館らしい丁寧なテーマ構成がなされている。主に教育的効果を目的としての展示ではあるが、現在の食をめぐる多岐にわたる問題の概観に役に立つ展示だと言えるだろう。ケ・ブランリ美術館とマルセイユの地中海文化博物館にコレクションが散逸してから振るわなかった人類博物館だが、この場所ならではのスタイルを次第に獲得しつつあるのかもしれない。

 関連イベントもなかなか気が利いていて、料理専門カメラマンの指導による料理写真技法ワークショップや、子ども向けの五感教育、展覧会のテーマと絡めたディナーなど。展覧会は6月1日まで開催されている。また関連展示として、3月18日から、ナポリ考古学美術館のコレクションで構成される、「ポンペイの最後の食事」が開催される。これは考古学調査の結果として、ポンペイの遺跡から、人々が当時食べていた食事を再構成する試み。パリを訪れることがあったら是非足を運んでみてほしい。

◇初出=『ふらんす』2020年2月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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