食をテーマにした展覧会「目で食べる」
近年、様々な場所で食をテーマにした展覧会を見ることが多くなった。去年この欄でもアラン・パッサール監修の展覧会について書いたが、今回は、「Manger à l oeil(目で食べる)」を紹介したい。マルセイユにあるヨーロッパ地中海文化美術館、通称MUCEMで9月30日まで開催されているこの展覧会は、フランス人と食の関わりを広く写真で辿ったものだ。
フランス料理は、和食同様、ユネスコの無形文化遺産に登録されているが、ユネスコの評価が、料理単体の価値だけではなく食が作る文化や社会に置かれているように、この展覧会も、フランスの食文化がどのように発展してきたかを写真によって示そうとしている。19世紀のブルジョワ家庭の夕食風景、有給休暇が法律で定められたのちの休暇のピクニック風景、第一次大戦時の写真から、一家族のアルバムを40年にわたって辿ったもの、マクドナルド1号店や最初のスーパーマーケット、かつて女性雑誌に掲載されていた料理のレシピカードから食卓や食物をテーマにした現代アート作品に至るまで、対象となるイメージはヴァラエティに富む。
この展覧会からは、ここ150年間のフランス社会の変遷が手に取るように見え、食卓をめぐる写真がいかに各時代の社会と密接に結びついているかがよくわかる。
同時に、食を楽しみたいという欲求はどの文化にも共通するにせよ、やはり、フランス人は食べること、そして食事の時間を何よりも重要視してきたことがこれらの写真からは感じられる。食卓についているひとときの豊かさ、そしてキッチンや食卓への愛着が多くの写真から溢れている。良く生きることを愛してきた国民なのだと実感させられる。
また、本展覧会の期間中には、前世紀の懐かしいフランス食卓の光景のアマチュア写真を応募したり、フランス人のソウルフード的な料理の数々をアートな文脈で再解釈して提供するディナーなど、「食指をそそる」イベントが企画されている。
マルセイユまで展覧会を見に行ける人は少ないかもしれないが、本としても出来のいいカタログ(Manger à l’oeil, Éditions de lʼÉpure)が出ているので、こちらを手に入れてもいいだろう。一般書店で購入可能。
◇初出=『ふらんす』2018年10月号