勢いを増す韓国料理ブーム
フランス、特にパリでこの数年急増したものの中に、韓国料理レストランがある。和食ブームに続く新しい傾向を皆探しているとはそれ以前から言われていて、台湾料理のプチブーム、タピオカドリンクの流行や中国の火鍋レストランの増加なども同時に起こっているのだが、韓国料理レストランの流行で特筆すべきなのは、それが単に食のブームにとどまらない点だろう。
フランスにおける韓国ブームは、日本と同じように、Kポップや映画、コスメなどを通じて入ってきた。しかし最近はそういった若者向けのポップカルチャーに限らない、韓国の現代文化の厚みが認識されつつある。現代アートで言えば、ギャラリーペロタン、タデウス・ロパックなどの大手は現在ソウルにもギャラリーを構え、ソウルはアジアのアートのハブと捉えられているし、音楽も、ポップだけではなく、20歳の若きクラシックピアニスト、ユンチャン・イムなどはこちらでも高い評価を得て人気だ。去年秋にハン・ガンがノーベル文学賞を受賞する少し前から、専門出版社だけではなく、大手の出版社からも韓国現代文学が翻訳出版されるようになっている。かつての日本文化が芸術的な分野から大衆的な文化まで広く裾野を広げていったように、フランスの韓国ブームもフランスの様々な層にじわじわと浸透しつつあるようだ。
前置きが長くなったが、そういった背景を元に今回広がりつつある韓国料理のブームは、一過性のものではないように感じられる。消費としてのブームではなく、韓国文化に愛着を持つようになったフランス人をターゲットにしているからだ。ちなみに現在パリにある韓国料理レストランは200軒以上。唐揚げ、餃子、海苔巻きのような他のアジア料理でも見慣れた料理があるし、最近フランス人がホットチリソースなど辛さを求める(!)傾向にあるのも、韓国料理へのハードルをぐっと下げた理由だろう。野菜が多いのも昨今のヘルシーブームに適しているし、キムチなどの発酵食品が体に良いという評判が広まっているのもプラスに働いている。
また、提供される料理の幅も広がっている。近年オープンしたレストランは、定番の焼き肉やビビンバだけではなく、日替わりの定食や、フレンチの影響も感じられるモダンコリアン、韓国スイーツが食べられるティーサロンまで、バラエティに飛んでいる。内装も、昔の韓国の定食屋を真似したものからスタイリッシュなカクテルバーまでさまざまだ。ここ1、2年の和食レストランがハイエンドなガストロノミーか、おにぎり屋のようなストリートフードの両極に振りがちな昨今、比較的財布に優しく、広い層にアクセスしやすい料理を揃え、さまざまな用途に使いやすい店舗作りをしている韓国料理レストランが一斉を風靡する日も遠くはないだろう。