文化の盗用か、敬意ある再解釈か
フランスは外国料理に対して関心が高く、例えば隣国イタリアなどに比べれば外国人のシェフやレストランが評価される機会が多い。日本のシェフがミシュランの星を多く取っているのはその好例だが、そういった傾向が時に軋轢を生むこともある。流行りの外国料理をフランス人がビジネスにすることがあり、それが文化簒奪と捉えられる場合があるからだ。
最近炎上したヴェトナムコーヒーショップのケースがそれに当たる。リール市で新しくオープンした、ヴェトナムカフェを供する店が批判の対象になったのだ。このカフェは、フランス人のカップルがオーナーで、ヴェトナム旅行に行った時に、かの国で独特の発達をとげたヴェトナムコーヒーに魅了され、この店を開いた、というストーリーだった。しかし彼らがソーシャルメディアで行った宣伝は主にアジア人コミュニティーからの反発にあった。その理由は、ヴェトナムコーヒーを称していながらそれに当たる商品がほとんどなく、また、リールで初のヴェトナムコーヒー店と謳っているがすでにこの街にはヴェトナム人移民二世によるヴェトナムコーヒー店があること、そして何よりも、かつて植民地であった国の文化をフランス人がビジネスのネタにしているということへの抵抗感があったのだと思われる。
店は、自分たちはヴェトナム文化に敬意があり、現地の生産者との連携を行っていると主張したが、このケースをきっかけとして議論になったのは、何が文化簒奪で何がそうではないかということだと思われる。日本の食文化についていえば、フランス人が経営している和菓子の店やラーメンの店などは現地の日本人にも違和感なく受けいれられている。ただ、日本はフランスの植民地であったわけではないから歴史的に対等な関係であり、それが決定的な違いだとフランス在住の移民二世のジャーナリストたちは主張している。また、レシピ本やコンサルティングなどで有名になったあるフランス人シェフたちのグループも、様々な国に旅行をしてはそこで食べた料理をスタイリッシュなコーディネイトで紹介しており、それが批判の対象になることもあった。ビジネススクールを出た移民二世、三世がデザイン性のある中華レストラン、ヴェトナム料理のレストランなどを立ち上げ大成功するケースはここ10年ほどの新傾向となっており、それに便乗しようとするフランス人も少なからずいるわけだが、今回のコーヒー店の炎上もそういった潮流に我慢できなくなったアジアンコミュニティーが声を上げたのだと捉えることができる。
日本の食文化の場合は、フランス人と日本人、またフランスに住む外国人などが自由なクリエーションを行うことで、和食に新たな風を入れることができた。そういった再解釈がどこまで許されるのか、それを考える良い機会が現れだしているように思われる。



