ガストロノミーガイドのこれからの役割
ミシュランガイドの発表は、例年恒例の行事でもあるのでこの欄では定期的に扱うことはせずにいた。どのレストランが一つ星を獲得したとか失ったといったニュースは、業界の関心対象以上のものではないからだ。ガストロノミーのガイドに現在存在価値があるのかという批判も毎年お決まりの台詞だ。ただ、ミシュランガイドが今ガストロノミー界で起こっていることを正しく把握し評価しているかを問うことは、現代社会において何がガストロノミーにおいて評価されるべきなのかを考える良い機会だといえるだろう。
そもそも、ミシュランガイドにおいては、料理だけではなく、サービス、内装も含めた、その場所での体験すべてが評価の対象になっていた。それに加え、2020年からは、環境保護や持続可能な食文化に取り組むレストランに「グリーンスター」を与えている。しかし、影響力の高いガストロノミーガイドが評価する対象がそれだけにとどまってよいのだろうか、という声もある。食業界における女性の地位について多くの記事を書いてきたエステル・パヤニは、新しく星を獲得したシェフのうち、女性はわずか6%程度であると指摘している(レストラン業界全体における女性シェフの割合は約19%)。10年前と比較すると星自体の数が11%も増えているのだから、才能ある女性シェフがもっと注目されてもいいだろう。
それはまた、料理、内装、サービス、そして食材が由来する環境への配慮に加えて、レストランという場所が一人のシェフの下で働く多くの人間により成りたっていることにもっと重要性を置くべきだという問題提起とも繋がってくる。奇しくも授賞式のすぐ前に、世界的に有名なレストラン「ノーマ」のシェフによる元従業員への暴力が暴露され、シェフは辞任を余儀なくされたが、従業員の労働環境も、持続可能な食文化には欠かせない要素ではないだろうか。もちろん、ガイドの評価には現実的な制約があり、数百件のレストラン一軒一軒についてその内情を調査することは不可能だから、具体的に労働状況を評価の対象に入れることは難しいかもしれない。
やはり今年の授賞式の直前、数々の星付きレストランに野菜を卸していた女性生産者、エレーヌ・ルグランが、中には支払いが半年以上滞る店も稀ではないと証言をしてやはり話題になった。生産者の中には同様の苦い経験をしている人たちも多く、彼女の文章は共感を呼んだ。レストランに卸していながら、一般顧客相手に鞍替えした生産者も例外ではないという。
もちろん、人間的な労働環境を作り、生産者に敬意を持って接しているレストランも存在する。ただ、現在の職業界の状況をさらに改革していくためには、ミシュランガイドのようなメディアが、時代についていくだけではなく、さらにリーダーシップを取って次世代を変える牽引役になっていくことも必要ではないだろうか。



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