白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ 食」関口涼子

ワインとアール・ヌーヴォーのコラボレーション展示


多様なオブジェが並ぶ「世界を味わう」展

 すでにこの欄でも紹介したように、アートとの関わりを全面に出すブランドはファッション業界だけではなくワインやシャンパーニュ業界でも増える一方だ。そんな中、シャンパーニュで有名なエペルネー市の美術館で9月16日から12月11日まで開催されているのが、「世界を味わう」という展覧会。アール・ヌーヴォーとの関わりが深いメゾン、ペリエ・ジュエ所蔵コレクションを中心に構成されている。

 最近美術だけではなく多くの分野で取り上げられている、自然・植物・料理・デザインというテーマをアール・ヌーヴォーの作品に絡め、キュレーターのバンジャマン・ロワイヨテの構成の妙で、大きくない展示空間に全部盛り込んでいる。アール・ヌーヴォーのように、自然をモチーフにした作品の隣に、海藻ゼラチン素材をもとに製作されたコンテンポラリーデザインの美しい壺が並ぶと思えば、その隣には、様々な種類の海藻を小さなガラス板に嵌め込んで木の引き出しに収納する、十九世紀の海藻標本が展示される。自然の美しさが、時代を問わず人々にインスピレーションを与え、様々な分野で、多様な形のオブジェとなっていることがよくわかる。

 シャンパーニュメゾンの中でも長い歴史を誇り、アール・ヌーヴォーとの関わりが深いペリエ・ジュエだが、最初から現在のようなコレクションを保有していたわけではない。現代アートをコレクションするワインのシャトーが多い中、あえて自分たちの歴史と関係のある時代の美術品を選んできた。

 ペリエ・ジュエでは、割れやすいオブジェであるグラスコレクションの一部を、メゾンが招待するディナーなどでサーブするのに実際に使用しているらしい。そのエスプリの延長で、今回の展覧会においても、アール・ヌーヴォーの食器とコンテンポラリーデザインのカトラリーが、保護ガラスなしにそのまま、最後の展示室の中心に設置された大きな台の上に置かれている。せいぜい、脚の長いグラスについては、最低限糸で固定されているくらいで、鑑賞者のすぐ近くになにげなく置かれたオブジェは、思わず触れたくなってしまうほどだ。現在は美術品扱いになっており、実際にこうして美術館に展示されるオブジェの数々だが、元々これらが日常で使用されるためにあったのだというメッセージが展示の方法自体から伝わってくる。それほど大きくない展示空間だからこそ可能な点を生かした個性的な展覧会だ。

◇初出=『ふらんす』2023年12月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる