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「アクチュアリテ 食」関口涼子

フレンチとノンアルコールのペアリング

 フランス料理のレストランで供される飲み物と言えばかつてはワインと相場が決まっていたが、最近は、カクテル、ビール、日本酒と、ドリンクリストも多様性を見せてきた。アドリーヌ・グラタールの中華フレンチレストラン「Yamcha」のように、料理と中国茶のペアリングを何年も前から供している店もある。

 アンヌ=ソフィー・ピックは、ヴァランスの三つ星レストラン「ラ・メゾン・ピック」で、この7月からノンアルコールのペアリングメニューを始めた。シェフと一緒にペアリングを開発したのは、女性ソムリエのパズ・レヴィンソン。すでに完成した飲み物であるワインと異なり、ノンアルコールドリンクは、料理に合わせて一から作り上げていく楽しみがあるという。実際に、カニの前菜に合わせて玄米茶のカクテルが供されたり、リンゴのデザートにはシードルヴィネガーとコーヒーをミックスした飲み物が出されるなど、より料理に寄り添ったメニューになっている。

 ふだんアルコールを飲む顧客でも楽しめる、新鮮なマッチングの驚きがある。例えば、セップ茸の一品には、ウーロン茶を合わせ、秋の森の土の香りを引き出す。また、子羊をイチヂクと桜の葉で巻き調理した主菜には、コーヒーのロマネコンティと言われるパナマの品種「ゲイシャ」が大きなワイングラスで添えられ、爽やかな苦味と焙煎香が肉の甘みにバランスを与える。


世界最高級のコーヒー「ゲイシャ」がワイングラスで供されると、香りが広がり料理への期待を高める

 ノンアルコールペアリングでは、ワインのタンニン成分を、お茶の葉やコーヒーなどのタンニンに求めることで舌を活性化させると同時に、冷たいカクテルから熱いお茶、ぬるめに用意されたコーヒーなど、温度差を利用してペアリングにヴァラエティを与える楽しみもある。ノンアルコールのペアリングはこれまでにも存在したが、「ラ・メゾン・ピック」でのメニューでは、それぞれの料理がサービスされる前に飲み物が客のテーブルの前で準備されるので、まず飲み物のアロマを嗅ぎ、その後に運ばれる料理のアロマとのハーモニーを楽しむという、嗅覚のペアリング的要素もある。

 このメニュー、開始されてから4か月ほどだが、客からの反応は大変に良いという。アルコールを飲めない人もペアリングが楽しめるし、近年の、アルコール摂取を控える傾向にも合っているので、こういったサービスは他でも増えていくのではないだろうか。

◇初出=『ふらんす』2020年12月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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