映画館でも良質な食も求めるフランス人
映画館での鑑賞に伴う食と言えば、ポップコーンに炭酸飲料と相場が決まっていた。糖分や塩分の高い商品ばかりを消費するこの習慣を考え直そうという問題提起から最近アソシエーションが立ち上げられた。Mieux manger au ciné(映画館により良い食を)というプロジェクトで、フランス文化庁や国立映画センターなども協賛となっている。
目標は、映画・芸術関係の人間と職業界の間に繋がりを作り、良質な商品を提供できるようにすること、映画館で消費されるにふさわしい商品開発を援助する基金づくり、また、一般観客ともこういった問題を共有し、映画館での食というテーマについて関心を持ってもらうことなどだ。
今月4月には、このプロジェクトの啓蒙活動の一端として、映画館で食べる新たな食べ物の第2回コンクールが開かれる。美味しくて健康に良いだけではなく、エシカルでサステナブルであることも求められるこのコンクール、去年はシードルヴィネガーと海藻のポップコーン、グルテンフリーのチョコレートボール、おにぎりやモルトのアイス、カシスのデトックスアイスなどが選ばれた。選考に残った商品はアソシエーションのサイトを通して購入することもできる。審査員には、栄養士や映画館経営者、クラウドファンディングの食部門担当から食のジャーナリスト、スーパーマーケットグループの関係者まで多様な人材が選ばれている。授賞式は当然映画館のヌーヴェルオデオンで行われ、映画通であることで知られる女性シェフ、マノン・フルーリが是枝裕和の「歩いても 歩いても」の上映会に合わせた軽食を提供する。
しそとツナ、なす味噌などの入ったおにぎり"NANIGIRI"
また、4月12日から18日までの1週間、パリやパリ郊外、リヨンやニーム、シャンベリー、ストラスブールなど地方も含めた提携映画館十数館で、上映されている映画にインスパイアされたおつまみを料理人や生産者が提供するというキャンペーンが行われた。このイベントには「あん」や「タンポポ」、「魔女の宅急便」などが上映されるなど、日本映画も目立っている。このようなイベントは、カンヌ映画祭の時期や、秋にも続けられる予定らしい。
食の意識改革はさまざまな分野で起こっているが、映画と食という、日本だったらちょっと考えつかないテーマに目をつけたのはさすが全国に2000館以上の映画館があるフランスならではというべきか。映画館における真の新しい傾向が生まれてくるためにも、今後息の長い活動を期待したい。
◇初出=『ふらんす』2023年6月号