2017年11月号 女性シェフたちを描いたドキュメンタリー
女性シェフたちを描いたドキュメンタリー
ガストロノミで知られるフランスだが、女性シェフの置かれている状況は他国と比較して決して理想的とは言えない。各官公庁の厨房で女性シェフはただ一人(海外県・海外領土省)、フランス版ミシュランに掲載されている616の星付きレストラン中、女性シェフの店は3パーセント(隣国イタリアでは14パーセント、世界では4パーセント強)、今年追加された70店の内、女性シェフのレストランはたった一軒だ。エリゼ宮のキッチンをはじめとして、今だに女性更衣室さえないレストランも多いという。
この夏、À La Recherche des femmes chefs(女性シェフを探して)という、ヴェラーヌ・フレディアーニ監督の映画が公開された。このドキュメンタリー作品では、フランスに限らず、アメリカ、中国、デンマーク、イギリス、スペイン、イタリア、リトアニア、チュニジア、アルゼンチン、チリ、ボリヴィア、ブラジル、南アフリカなど、世界各地の女性シェフを取材している。料理人だけではなく、女性ソムリエやレストラン経営者、料理学校の女子学生などもインタビューを受け、男性がトップに立つことの圧倒的に多いレストラン業界で、自分たちの場所を確保するためどのように戦っているかを語っている。
女性のシェフが少ないのは、彼女たちに才能がなかったからではない。伝統的に女性料理人の多かったリヨンでは、ウージェニー・ブラジエが1933年に初めて三つ星を取っている。マーケティング活動が重要な現在、ガストロノミの国際シンポジウムや、雑誌などメディアでの露出が少ないこと、また、ネットワークを作って権利獲得活動をしないことが、それら女性シェフの存在感が薄い理由になっていると指摘される。 頑張って当たり前、ミスをすると「やっぱり女性は」と指差される状況の厳しさもある。
女性シェフの決して容易くはない日常を描き出している映画ではあるが、そこに現れるのは、情熱を持って日々料理をし、ワインやお客に向かう女性のダイナミックな姿であり、男性と共に、明日のガストロノミ界を変えていくための様々な提案であり、そこに希望が持てる。日本の女性シェフやソムリエたちは、この映画を見てどんな感想を持つのか、ぜひ聞いてみたい気持ちにさせられた作品だった。
◇初出=『ふらんす』2017年11月号