フランスの田舎の「新しい」オーベルジュ
最近出版された料理本の中でも、切り口が個性的なことで話題になったものに、Nouvelles auverges, cuisines de campagne(「新しいオーベルジュ 田舎料理」)がある。オーベルジュとは、最近日本でも耳にするようになった用語で、宿泊可能なレストランのことだ。最近では、単に土地の食材を使うだけではなく、自らの菜園を持ったり、オーガニックワインや自然酵母パン、自家製ビールや発酵食品を作ったりと、より徹底して自然に近い取り組みをしているオーベルジュが現れているという。
Victor Coutard, Anne-Claire Héraud, Nouvelles auverges, cuisines de campagne (Tana Éditions)
著者のヴィクトール・クタールと写真家のアンヌ=クレール・エローは、エコロジーや農業、料理、自然といったテーマを専門としており、これまでフランスじゅうを取材で回っている。取り上げるオーベルジュの数をあえて8軒に絞り、単なるガイドブックではなく、それぞれの地方や、各オーベルジュの個性が浮き彫りになるように心がけたという。
確かに、それぞれのオーベルジュはスタイルが全く異なるだけではなく、そこで供される料理も異なる。各地方で採れる珍しい果物やハーブ、川魚の紹介、それを使ったレシピなど、料理、風景、自然とさまざまな面からフランスの地方の多様性を新発見できる一冊となっている。
外国旅行が以前より困難になってから、雑誌では国内旅行の記事が増えた。バカンスも、今までは海外で過ごしていたのが、フランスの田舎で過ごすようになった人が増加しているという。そうした読者層に好評を博したのかと思ったが、それだけではなく、ベルギーやオランダ、ドイツなどのオーガニックワイン愛好家が本を購入することも多いのだという。確かに、オーガニックワイン本もまた、 これからの新しい働き方、自然と共存する新しい料理を模索している若い世代のシェフに多く読まれている。
これらの新しいオーベルジュは、そもそもその村の出身ではない若い人々によって作られていることが多いが、そういった「よそ者」が結果として地方の生産者と深く関わり、地元の経済とエコロジーが共存する形で活性化させている。写真も美しく、眺めているだけでも、若い世代が作り上げる新しい料理に希望の持てる一冊になっている。
◇初出=『ふらんす』2022年3月号