呼び方でひとつで変わる味覚
レピュブリック広場近くのこのカフェではarroz caldoの名で提供されていた
アジアの複数の文化に共通する料理がフランスに受容されるとき、それがどこ由来かは多くの場合料理の名前からわかる。餃子の場合、料理自体は昔ながらの中華料理屋にはあったが、ravioli chinois(中国ラビオリ)と呼ばれていた。十数年前、Gyozaの名で一躍脚光を浴びてからおしゃれな品としてリバイバルを果たし、中華料理屋も、それでは、と中国語Jiaoziで表記をするようになった。今ではMomo, Manduなども、ravioliという表現は用いず、その国の言語で記されるようになった。
昨年より、フランスの料理雑誌やサイトで、日本人には聞きなれない料理の名前を見かけるようになった。それはCongeeである。しかし写真を見ると、わたしたちも知っているお粥、多くは中華粥があがっている。お粥が流行るとは?と不思議な感じがするが、グルテンフリーでヘルシー、消化も良く、自分たちの好きなトッピングができるということで人気を集めているらしい。
これはおそらく、直接アジアから来たブームではなく、流行発信の地ニューヨークで流行っている「コンジー」を経由してフランスに入ったのだろう。
ニューヨークには、それ以前に流行ったポリッジの続きの流れを継いでか、ココナツミルクで仕立て、果物などを彩りよくのせた甘いヴァージョンもあるらしいが、フランスで見かけるのは鶏出汁ベースの中華粥。最近では、中華レストランのみならず、韓国レストランやベトナムレストラン、おしゃれなフィリピン料理カフェ(そういう場所がパリにできているのです)やベジタリアンカフェなどでも食べることができる。
フランス語で米のお粥をさす言葉と言えばbouillie du riz。ブイイーというこの言葉に良いイメージはない。フランス人にどんな料理?と聞けば、ドロドロで、何もかもが一緒くたに煮られた、決して美味しくはないが病気の時にそれ以外のものを口に入れられないから仕方がなく食べるもの、という答えが返ってくるだろう。現在でも、同じ料理を提供するにしてもこの言葉がレストランのメニューに並ぶことは決してないに違いない。本来はタムール語でCongeetと言う(フランスには17世紀に一度Canjéの綴りで入ってきている)。ニューヨークというフィルターを一度通すことで、ファッショナブルでヘルシーな若者の料理に変身しえたのだろう。言葉のもたらすイメージが味覚にどれだけ影響を与えているかがわかるいいケースだ。