新型コロナで変わったフランスの食環境
外出制限令が出されてから1か月、フランス人の食環境は全く変わった。立場別にその変化を見てみよう。
シェフ─従業員に対して部分失業保険が適用されるなどの補償システムがあるとはいうものの、将来に不安を抱えながらのシェフたちは、それでも多くが連帯活動に励んでいる。医療事業者やホームレス、故国に帰れなくなった外国人留学生や難民に炊き出しを届けるグループ、自分たちに食材を卸していた生産者と消費者をつなぐ「仮設市場」としてレストランを提供するなどの試みがいたるところに現れている。
関根拓シェフが医療従事者のために用意したハンバーグ弁当(4月6日)
生産者─市場やレストランなど卸先を失った生産者を支援するため、消費者たちは複数で注文をし、まとめて配送してもらうシステムを立ち上げている。多くはレストランを通じて彼らの野菜や魚、肉の質を熟知していたグルメたちだ。また、人出が最も必要な春のこの時期に国境が閉鎖されているため、農業・食料省は、外国人季節労働者に代わって失業したフランス人に地方の農業を支える人出として働きに出るよう推奨している。
家庭─毎日の生活に欠かせないパンを自宅で作る人が急増。子どもがいる場合、一緒にパン生地を捏ねるのは団欒の時間にもなるし、外出の機会を減らすこともできる。それに合わせて、多くのシェフやブロガーが初心者でも作れる簡単なレシピを提供している。
食関係のジャーナリスト─小生産者、シェフたちの活動を広く配信し、消費者や関係団体と繋げる役割を担っている。医療従事者やホームレスに差し入れをするための資金を募ったり、公共機関と交渉したり、などだ。また、レストラン批評が不可能な今、どの雑誌も苦心して他のアイディアを探っている。テイクアウトの料理批評を始めたジャーナリストや、「映画で有名なあの料理を自宅で作れる!レシピ」を掲載している雑誌も。視聴者からのレシピの輪を広げるヴィデオチャンネルも現れた。
最近では、シェフと連帯して、自らの作品の売り上げを医療事業者への差し入れの資金に充てる、器の作家団体まで出てきた。飲食業界、小規模生産者はいずれも厳しい状況に置かれているが、フランスの食文化を守ろうと市民や業界が広く協力し合う体制が出てきたのは救われる。事態の収束後も、多くの人々にとって食べ物との関係は変わってくることだろう。
◇初出=『ふらんす』2020年6月号