2017年4月号 ミシュランガイド
ミシュランガイド
日本でも9年前からミシュランガイドの発表は毎年話題になっているが、本家本元、フランスの発表時期はその比ではない。2月はシェフたちにとって気が気ではない時期だ。メディアでは下馬評が喧しく交わされ、評判の高いレストランに行くと、彼らの気が張り詰めているのが料理からもひしひしと伝わって来る。
今年の発表の中で日本人にとって嬉しいニュースは、小林圭シェフの「レストラン・ケイ」が二つ星を獲得したことだろう。小林シェフは2012年に一つ星を獲得してから、毎年のように二つ星候補と噂されていた。日本人だけではなく、勿論フランス人にもファンが多いこのレストランについて、美食ジャーナリストのエゼキエル・ゼラは何年か前に「小林圭はパリのミシュランガイドで最初に三つ星を獲得する日本人シェフとなるだろう」と書いているほどで、満を持しての待望の昇格だった。
日本人シェフでは他にも、半年前に開店したばかりの「ラルケスト」伊藤良明シェフ、「ラリアンス」の大宮敏孝シェフ、ランスのレストラン「ラシーヌ」の田中一行シェフ、寿司では「SUSHI B」の花田雅芳シェフが新たに一つ星を獲得した。佐藤伸一シェフの「パッサージュ53」のようにすでに星付きのレストランも入れると、日本人はすでにフランス美食界の一部を自然に構成する要素になっていると言える。
ミシュランガイドの選択について、フランスでも批判がないわけではないが、美食ライターの増井千尋が、地方で新しく一つ星をとった若干25歳のシェフに言及しつつ述べているように、「そうでもなければ知ることのなかったレストランの存在を教えてくれる」利点もある。ミシュランガイドの元々の目的が、フランス各地の自動車旅行への誘いであったように、パリに集中しがちなガストロノミ業界の目を地方に向けさせ、新しい才能を発見する良い機会でもあるからだ。
パリを訪れる日本人には、去年開店したばかりでいきなり二つ星獲得の「ル・クラランス」に行くことをお勧めしたい。以前のレストランでもすでに二つ星を獲得していたシェフ、クリストフ・プレの料理は、この1年、多くの美食家を魅了し、ワクワクさせてきた。脂が乗っている今こそ、その才能に出会う時だろう。
◇初出=『ふらんす』2017年4月号