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「アクチュアリテ 食」関口涼子

柑橘類と広告をめぐる展覧会

 南仏はマルセイユ近くの街セットは、詩人ポール・ヴァレリーの墓があることでも有名な風光明媚な港町だが、その街の美術館で現在美味しそうな展覧会が行われている。テーマは柑橘類。特にオレンジを巡る商品の広告ポスターやパッケージなどが展示されているのだ。

 この展覧会「Superbemarché(スーパーすごいマーケット)」を企画したのは国際大衆アート美術館(Musée international des Arts modestes)。この美術館はいわゆる美術作品ではない、わたしたちの日常生活に近いオブジェを中心にコレクションしている。今回も展示されているのは、キッチンペーパーや買い物用のポリ袋、柑橘類の宣伝ポスターなどだ。特に今回の展示は、オレンジの個包装紙の重要なコレクションの寄贈を受けたことから始まったという。みかんの個包装紙などに普段あらためて目を留めじっと眺めることは稀だとおもうが、こうやって数を見ていくと、そこからフランス人やさらには柑橘類生産地の南ヨーロッパが柑橘類にどのようなイメージを与えようとしていたかが見えてくる。理想化された地中海の風景、ヴィタミンたっぷりであることを匂わせるヴィヴィッドな色彩などだ。アーティストの作品ではないことで、かえって一つのテーマを巡って社会がどのような想像力を働かせているのかが分かって興味深い。また展覧会の第二部は、これらのオブジェからインスピレーションを受けたアーティストやグラフィックデザイナーの作品から構成されている。

 日本と同じように、地方により気候も食文化も異なるフランスだが、柑橘類は北から南まで、果物として食べるだけではなくジャムにしたりデザートに使ったり、ジュースなど様々な形で食され、愛されてきたことがよく分かる。秋から春にかけて、食卓を鮮やかな色で楽しませてくれる果物だけに、デザインも心浮き立つものが多い。思わずこれからは果物の包装紙をコレクションしようかと思ってしまうくらいだ。近郊を訪れたときにはぜひ立ち寄って見ることをお勧めする。

【展覧会情報】
Superbemarché. Papiers d’agrumes&Co
 (すーパーすごいマーケット。柑橘類がテーマの印刷物色々)
2025年4月11日から2026年3月8日まで
MIAM, 23 Quai Maréchal de Lattre de Tassigny 34200 Sète

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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