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「アクチュアリテ 食」関口涼子

フランス発、堂々のイタリア料理大全

 近年のフランスにおけるイタリア料理ブームはとどまるところを知らず、次々とイタリア料理レストランが開店し、日本人シェフによる「うどんカチョ・ペぺ」を売り物にする店やローマ風ピザ屋なども現れた。イタリア料理の食材もかなり手に入るようになり、イタリアン・ナチュラルワインがイタリアの次に入手しやすいのはフランスだと言われているくらいだ。

 フランス人の関心の高まりを反映するかのように、このたびイタリア料理大全ともいえる本が出版された。聴取者180万人を誇る、今年で放送10年目の超人気ラジオ番組「On va déguster(さあ食べてみよう)」のプロデューサー、フランソワ=レジス・ゴードリーとそのスタッフが中心となって編集し、11月末に出版された『On va déguster Italie』だ。

 このチームは今までにもフランス料理についての本を2冊出版し、売上げ20万部の大ベストセラーとなった。今回も、定価が5千円以上する本にもかかわらず、初版4万部となかなか強気。重さ3.2キロ、350のテーマと200以上のレシピと大部ではあるが、それぞれのテーマが1、2ページと短く、その中に幾つものトピックが盛り込まれ、図版も充実しているので、「ティラミスとピザは好きだけど」程度の人でも眺めて楽しめる作りになっている。さすが番組で培われた、盛りだくさんの話題で視聴者を飽きさせない手法が本でも生きているというべきか。パスタの歴史、バルサミコビネガーの種類、グラッパの製法から、イタリアガストロノミー界のシェフの紹介、イタリア人移民がアメリカを始め世界中にもたらした料理、イタリアのユダヤ人コミュニティーの料理、カフェを使った料理、甘いニョッキの数々、イタリア語由来のフランス料理用語、苦味のある野菜の数々、サボテンの実の利用法、ソフィア・ローレンの出演映画と食べ物、など読み応えたっぷり。フランス人にとっての外国料理ではあるが、執筆者159人のうち、イタリア人96人を採用、歴史家のマッシモ・モンタナーリも幾つかのテーマを監修している。発売前からかなりの話題になり日本語を含め、すでに数か国語への翻訳が決定しているという。なんとイタリア本国への翻訳も予定されているという。イタリア料理が美味しくないので有名だったフランス、本気を出すとなかなか侮れない。


伝統食として、多種多様なパネトーネを紹介するページ

◇初出=『ふらんす』2021年2月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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