無断キャンセルに抗うフランスのNo more no show運動
レストランやホテルの予約を無断キャンセルする客はどの国でも問題になっている。フランスでは今年になって、100以上のレストランがレストランガイド「le fooding」と共に「No more no show」運動を起こした。この運動に賛同したシェフはフランス各地に及び、世代も様々、ジャンルも、ギー・サヴォワのような3つ星レストランの著名シェフからビストロまで、またラオス料理レストラン「ラオ・シャム」、チュニジア料理レストラン「トゥーンシア」、イタリアンレストラン「イル・バカロ」のような各国料理と幅広く、それが一層この問題の重要性を浮き彫りにしている。
no-show(無断キャンセル)に抗議の意を示す三つ星シェフのギー・サヴォア
彼らが出した声明では、無断キャンセルはレストランが客の食事を代わりに払っているようなものだとして、店が負担しなければならない費用(食材費、人件費、空席が並ぶことによるイメージ低下)が数え上げられている。レストラン「グラニト」のシェフ、トム・メイェールは、彼の店での無断キャンセルによる損失は売上の1割に及ぶと言う。「このキャンセルさえなければ、従業員一人を雇える程の損失なのです」と彼はラジオ局RTLの番組で証言した。
もちろんこれは今に始まった問題ではないが、レストラン予約サイトThe forkによると、コロナ前に比べて無断キャンセルの数は2割増したという。コロナ感染者、濃厚接触者になったための直前キャンセルがあらゆる場合で起こったこの2年間で、人々は、気軽にキャンセルをしてもいいと考えるようになってしまったのかもしれない。
レストラン側の変化もあった。かつてお客は電話で予約したり、あるいは近所のレストランであれば直接店に出向いて予約をしていたのが、店側が手間を省くために専用サイトに予約を委託するようになった。電話での予約ができなくなったところも多い。しかしそのことにより、客と店との人間的な関係が築きにくくなった。キャンセルする場合でも、ボタン一つを押せばいいだけなのだ。常連客が多いお店では無断キャンセルは少ないかもしれないし、繁華街にあるビストロではキャンセルされても代わりのお客が入るかもしれないが、客席数が少ない店やガストロノミ・レストランなどでは、無断キャンセルはダイレクトに打撃を与える。
この問題を解決するために導入されつつあるのは、予約時にクレジットカード番号を記入し、無断キャンセルした場合には幾らかの金額が差し引かれるというものだ。このシステムのせいでお客が予約を渋るかもしれないという危惧もなくはないが、特に大都市のレストランなどでは、このシステムを採用する店はここ1、2年の間に急増した。
本来ならば、店と客の間に信用関係が築ければ理想的であるだろうが、コロナでお互いの顔が見えなくなったことが、こんなところにも残念な影響を及ぼしているのかもしれない。
◇初出=『ふらんす』2022年10月号