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「アクチュアリテ 食」関口涼子

2018年5月号 共産党のためのガストロノミ?

 リュマニテLʼHumanité は、1904年にジャン・ジョレスにより創刊された日刊紙で、1920年から94年までは共産党紙であり、現在でも紙面に色濃くその傾向を残している。「リュマ」と通称されるその新聞がガストロノミの雑誌を出すと聞いて驚いたが、長い間文芸欄の責任者であったアラン・ニコラによれば、編集部には意外と美食家が多いのだという。

 2 月末に創刊されたその雑誌、Cuisinons l’époque(「時代を料理しよう」)は、監獄で若い囚人たちに料理を教える活動もしている星付きシェフ、ティエリー・“ マルクス” の巻頭インタビューから始まり、エコロジーについての発言も多いシェフ、オリヴィエ・ローランジェと「スローフード」の戧設者カルロ・ペトリーニの対話を掲載するなど、ガストロノミと社会活動を結びつけている。他にも、154 の国から来た住民が暮らすというサン= ドニ市で食されている様々な国の料理を紹介したり、「インターナショナル」な一品(今号はラヴィオリ)がどのように世界中に広がっていったかを語る記事、給食に有機農法の食材を使おうとする自治体の試み、ビストロのシェフが提案する、材料を捨てない、無駄にしないレシピなど、「リュマ」らしさを残しながら、ユーモアに溢れ、バランスのとれた紙面構成になっている。

 編集責任のロマン・ジュベールは、これまでにもJésus という個性的かつポレミックな食の雑誌を発刊し、レシピばかりが載る料理雑誌の風潮をからかって「レシピを載せない食雑誌」と銘打ち、食と政治の様々な関係を明らかにする特集を組んでいる。「リュマ」の食雑誌には適任の人選だと言えるだろう。

 こういった雑誌は、実は既刊のガストロノミ雑誌よりも、現在のフランスの迷走する食状況を如実に反映しているのかもしれない。星付きのシェフもエコロジーや有機農法、食の社会格差を無視してはビジネスを行ないにくくなっているし、食関係の大企業の方でも、新しいアクションを起こさなければ、いつまでも「必要悪」としての商品にとどまり、好意的なイメージを獲得できないと意識している。

 資金が回るかぎりは頑張る、というこの雑誌、面白い試みなので、3 号雑誌にならずに続いていくことを祈りたい。

◇初出=『ふらんす』2018年5月号

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著者略歴

  1. 関口涼子(せきぐち・りょうこ)

    著述家・翻訳家。著書Fade、La voix sombre、訳書シャモワゾー『素晴らしきソリボ』

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