フランス人の自炊事情
フランスを旅行しているだけだと、普段フランス人がどんな食生活を送っているのかはわかりにくい。日本の料理本では「自炊」流行りだが、フランスはどうなのだろうか。
世論調査会社ifopの2020年統計によると、フランス人の67%が毎日自炊をしており、少なくとも2日に1度料理をしている層を加えると8割以上となる(女性の方が当然料理をする割合は高いのだが、日本ほどその男女差は広がっていない)。これらフランス人自炊組の74%が、つねに新鮮な野菜や果物を使っていると答えている。この2020年の統計以降、料理の回数が増えたという層は14%、8割は以前と変わらないと答えている。また、84%が子どもと料理をすると回答したが、富裕層ではその回答は6割程度であり、低収入の家庭のほうが子どもと一緒に料理をしたり、家庭のレシピを伝える機会は多いと言える。
これだけ見ると、多くのフランス人が健康的な食生活を送っているようだが、この統計以降インフレがフランスの家計を直撃した。食料品の値段の急騰に抗うかのように、INSEEの2023年統計では、93%のフランス人は、食べるものの質は落としたくないと答えており、67%は嗜好品を購入しつづけていると答えている。
とはいえ、希望と現実には隔たりがあり、一人あたりの月の食費(アルコール飲料を除く)は250ユーロ。厳しい予算のなか、食費を抑えるために、ハイディスカウントショップに行ったり、格安品を狙って買うと答えたフランス人も大多数で、2016年から2020年まで上昇を続けていたオーガニック食品が2021年以降伸び悩んでいるのもこれが理由だろうと思われる。また、肉や魚の消費を控えると答えた人も少なくない。
コンサルタント会社Giraのレポートでは、アントレ、プラ、デセール(前菜、メイン、デザート)という伝統的なフランス料理のメニューの構成は外食産業の14%と少なくなっており、消費者はより経済的で肩肘張らず、カロリーが高すぎず、そして時間をとらない食事に向かう傾向があるという。INSEEによると、現在でもフランス人の43%は昼食に45分以上をかけるというが、この時間は毎年短くなる一方だ。今までのコーススタイルだと、下手をすると主菜が終わらないうちにランチタイムが終わってしまいかねない。実際、軽食を提供するタイプの店は2019年から2022年の間に19%も伸びたという。
ここからは、食は大事にしたいが現実が伴わない、前の世代と食の価値を分かち合ってはいるが、急速な社会の変化との間で揺れるフランス人の姿が見えてくる。



