進化するビッシュ・ド・ノエル
フランスのクリスマスには欠かせない薪の形のケーキ、ビュッシュ・ド・ノエルは、日本におけるおせちビジネスに位置づけられるだろう。おせちはまだ自宅でつくる人も少なからずいるだろうが、ビュッシュ・ド・ノエルは店で買い求める場合がほとんどだから、作る方にとっても購入する方にとっても大きなイベントだ。各レストランやパティシエは、7月からすでに秋のビュッシュ・ド・ノエルの発表の招待状を送りはじめ、9月になると食のジャーナリストは毎日のように高級ホテルのレストランやパティシエのプレス発表会を巡り試食をし、今年の傾向を分析する(ちなみに今年のはやりはドバイチョコのようなピスタチオ味、食感は柔らかムースの時代は終わり、クランチーな要素が必要とされるそう)。有名なパティシエたちがここぞとばかりにその腕を競う機会であるのは間違いない。菓子業界にとってもう一つの大きな収入源であるバレンタインデーは、日本と違い、大きなサイズのケーキを披露する機会ではないからだ。
こういったスターパティシエたちが繰りひろげるビュッシュ・ド・ノエルのクリエーションは、もはやビュッシュの影も形もないことが多い。今年の例を見てみても、モミの木がグラフィックに表現されていたり、土星や蒸気機関車、望遠鏡(旅行をイメージしてのこと)、バレリーナのチュチュ、スタイリッシュな星型であったりと様々だし、クリヨンホテルのビュッシュはホテルの建物のミニチュア版、アンジェリーナがファッションブランドのルージェとコラボレーションしたのはバッグ型、さらにはピサの斜塔、郵便ポスト(サンタクロースに宛てる手紙か?)など、むしろ、時代の空気を読み取りながら他にはないテーマをどれだけ繰りだせるかに勝負がかかっているようだ。そういった意味では、モードのファッションショーに近いともいえるのかもしれない。
もちろん、一台数万円するこういったビュッシュ・ド・ノエルを皆が予約しているわけではないのは言うまでもない。どこで何を買うかは各家庭の収入によって異なり、スーパーや冷凍食品店などでビュッシュ・ド・ノエル型をしたアイスクリームなどを廉価に求めることもできる(これは保存がきくのも価格を安く抑えられる理由のひとつなのだろう)し、地元のお菓子屋さんで昔ながらのココアロールにクリームを塗ったビュッシュを好む人もいるだろう。一人暮らしの人のための小さいビュッシュを売っている店もある。
パティスリー業界はノエルが終わって1週間あまりでエピファニー(顯現祭)のガレット、これが1月いっぱい続いた後にはヴァレンタインデーを迎えるから、ハイシーズンに入るとさえ言ってもいい。



