中国のファストファッション導入で揺れる老舗百貨店
1856年創業のBHVは、リヴォリ通りを挟んで、パリ市庁舎の向かい側に建つこの界隈のランドマーク的存在の百貨店ですが、この記事を執筆している10月現在、そんな老舗の存続を揺るがすような出来事が起こっています。大きな波紋を呼んだ理由は、中国発のファストファッション大手のShein(シーイン)を6階フロアに迎えると発表したこと。ギャラリー・ラファイエットやプランタンのような、ファッションが中心の百貨店とは一線を画した、DIYやライフスタイルを重んじるパリらしい文化的な場所として知られてきただけに、驚くほどの低価格と環境汚染をはじめとする多くの問題が指摘されているブランドとの提携は、多くのパリ市民にとって受け入れがたいニュースでした。
そして、消費者以上に強い批判の声を上げているのが、すでにBHVに出店しているブランドの数々です。Le Slip Français(メイド・イン・フランスの下着)やAime(クリーンビューティー系サプリ&スキンケア)、Culture Vintage(アップサイクリング&ヴィンテージ服)、Talm(マタニティ用スキンケア)などが次々と契約の打ち切りを発表しました。さらに、現在ギャラリー・ラファイエットが所有するBHVの建物を、SGM(BHVの運営会社)と共に買収する計画を進めていたフランスの公的機関Banque des Territoires(領土銀行)も、BHVが事前の相談なしにSheinの導入を決めたのは、「信頼を損なう行為」だとして、交渉の打ち切りを表明しました。
ここ数年、オンラインを通じて世界中の製品がフランスやヨーロッパ市場で流通するようになりましたが、有害物質を含む商品や、劣悪な労働環境で製造された製品への懸念も高まっています。こうした背景から、EUではGPSR(一般製品安全規則)という新たな製品安全規則が2024年12月に施行されました。製品に含まれる化学物質やトレーサビリティなどの情報を、より厳格にECサイト運営者に提示させることで、一般消費者向けの製品(食品、医薬品等を除く)の安全性と透明性を高める狙いがあります。今回のBHVの騒動とは直接的な関係はありませんが、実店舗でもオンラインでも、「安さより信頼」を重視する風潮が社会全体で強まっている表れのように感じます。数々のブランドの反発を受けて、BHVが今後どのような決断をしていくのか、注目したいところです。



