スズランに始まりカンヌに終わる5月
フランスでは5月1日に大切な人にスズランを贈り、幸せを願うという素敵な風習があります。この日だけは、誰でもスズランを売ることが認められているため、街角のあちこちに小さなブーケや鉢植えを並べる1日限定の売り子が現れ、メーデーの祝日にもかかわらず街はとてもにぎやか。フランス人にとって、可憐に揺れる白いスズランの花は本格的な春の訪れの印でもあるのです。
スズランはフランス語でmuguet、春のシンボルで幸せを呼ぶとされる
5月のフランスと言えば、「カンヌ国際映画祭」も見逃せないイベントのひとつです。毎年、南仏の街カンヌにて5月中旬から12日間にわたって開催される国際的なフィルム・マーケットで、1946年の誕生以来、今年で73回目を迎える長い歴史を誇る催しです*。とかく賞レースが注目されがちですが、実際は、世界各地から多くの配給会社や映画関係者が集い、配給権の売り買いをしたり新しい企画のためのスポンサー探しをしたりする場でもあり、まさに各国の映画人たちが交流できる年に一度の華やかな映画の祭典なのです。
今年2月に開催された米アカデミー賞で、外国映画ながら最優秀作品賞に輝くという快挙を成し遂げた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は、すでに昨年のカンヌ映画祭において最高賞にあたるパルム・ドールを獲得していました。以前から世界的に注目を集める映画祭ではありましたが、この一件でパルム・ドール賞の権威がさらに増したことは間違いないでしょう。また、日本映画ともゆかりが深く、1954年の『地獄門』を皮切りに、80年代には『影武者』と『楢山節考』、90年代の『うなぎ』、そしてまだ記憶に新しい2018年の『万引き家族』と、5作品がパルム・ドールに輝き、その他の様々な部門賞を受賞した日本作品も少なくありません。古くから日本映画を高く評価し、世界に知らしめる大きな手助けをしてくれた映画祭でもあります。
カンヌを訪れる俳優たちの装いは、レッドカーペットでのドレスアップした姿も素敵ですが、インタビューで見せるカジュアルな服装もバカンス気分のくつろいだ雰囲気で、毎年チェックしています。そうそう、意外なハリウッドスターがフランス語を流暢に話す姿を見て驚く!というのもカンヌ映画祭の(あくまでも個人的な)楽しみのひとつです。
*今年は新型ウイルスの影響で5月以降に延期
◇初出=『ふらんす』2020年5月号