王様のガレットで1年の幸運を占うフランスの新年
明けましておめでとうございます! フランスには「正月三が日」の慣習はなく、祝日は元日のみ。この日ばかりは学校や会社だけでなく、郵便局、銀行、スーパー、カフェ、美術館と軒並み閉まり、1年のうちで最も静かな1日ですが、翌2日が平日であれば、瞬く間に日常に引き戻されてしまいます。フランスに暮らして20年近く経つ今でも、お正月はふと日本が恋しくなります。
新年の風物詩といえば、パイ生地にフランジパン(アーモンドクリーム)が入った焼き菓子「ガレット・デ・ロワGalette des rois」でしょう。東方の三賢人が幼子イエスを訪問・礼拝したことを記念するキリスト教の祝日「エピファニーÉpiphanie=公現祭」にあたる1月6日に食べるのが伝統的なしきたりでしたが、今は12月末から1月末頃までパン屋さんやスーパーで売られているため、家族や友人が集まるたびに味わえるお菓子です。そのためか、クリームも定番のアーモンド以外に、リンゴのコンポートやチョコレートガナッシュなど種類が増え、飽きることなく楽しめます。地方によって、ブリオッシュ生地のガレットもあり、バラエティ豊か。
さて、ガレット・デ・ロワのお楽しみは、中に隠れている「フェーヴfève」を見つけること! どのガレットにも必ずひとつ入っている小さな陶製のマスコットで、昔は「そら豆」を使っていたところからそう名付けられました。キリスト教の伝統的なデザインから動物、お菓子、モニュメント、アニメのキャラクターまで、そのモチーフはさまざまで、熱心に収集するコレクターも多くいます。「ふらんす」読者の方には、表紙を毎月飾っている可愛いオブジェとしてもおなじみですね。
フェーヴが当たった人はその1年幸運が訪れると言われ、「ロワroi=王」または「レーヌreine=女王」となり、ガレットを買うともれなく付いてくる紙製の王冠を頭に載せられます。子どもたちにとっては、フェーヴを獲得して王冠をかぶるのが一番の目的と言ってもいいほどで、ガレットを食べるたびに大いに盛り上がります。サーヴの仕方にも決まった作法があり、フェーヴに当たらないよう気を付けながらガレットを切り分け、最年少者がテーブルの下にもぐり、ガレットを見ずに誰がどのピースを食べるのか決めていきます。こうして、1月いっぱいは、ガレットを囲んでにぎやかなひとときを過ごすのも、フランスらしい新年の風景です。
ガレット・デ・ロワと冠
◇初出=『ふらんす』2021年1月号