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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第七回 人形劇でリアルな感動を! 子育てが地域文化の継承に

 子どもの笑顔が見たくて半世紀
 連絡会にとって一大行事である「総会」――。私が会長就任時は、市内の保育園の父母会長らが100名程度集まり、他の園の状況や取り組みを知る貴重な機会だった。しかし、連絡会の活動の負担を減らそうと縮小を図ってきたところに、新型コロナウイルス感染症の流行により、集まる機会が全くなくなってしまった。
 コロナ禍3年目の2022年12月。ようやく日常が戻りつつある中、まずは連絡会を知ってもらおうとイベントを企画することにした。企画を考える中で、ある園が父母会主催の人形劇イベントが大盛況だったことを連絡会グループLINEで報告すると、みんなで盛り上がり、連絡会でも人形劇イベントを開催しようということになった。
 さっそく船橋市内を拠点に活動する「船橋地区アマチュア人形劇連絡会(以下、船人連)」に問い合わせし、直接話を聞いた。船人連は、市内7劇団で構成され、半世紀の歴史がある。
 「きっかけは、小学校のお母さん仲間で人形劇を作って見せたこと。子どもたちが目を輝かせてとっても喜んでくれたから人形劇の魅力にはまり、毎年作品を作り続けている」。 こう語る劇団の方の目が輝いていた!
 船人連によると、以前は公立保育園での人形劇イベントに対して市から補助があったため、保育園との関係は深く、公演実績も多い。2005年度から14年度までの公演日数は年間120日~130日、公演割合は保育園28%、児童ホーム14%(『船人連40年の歩み』)。
 しかし、「ここ数年はコロナも相まって公演回数が激減している」と寂しそうに教えてくれた。娯楽が多様化したこともあるかもしれない。忙しいことを理由に保育園でイベントを開く父母会も減ってきた。でも半世紀も子どもたちの笑顔を見ようと活動を続けてきた劇団がなくなるのは地域の文化にとっても哀しいと思った。

 記憶に残る貴重な1日
 人形劇の開催を各園父母会へ告知すると、あっという間に定員80名に達した。今まで親子で一緒に楽しむ機会や交流の機会もなかったこと、人形劇に対する興味も反響が大きくなった要因だろう。
 当日は「まほうのほうき」(人形劇団ぐるーぷ あ)と「ちびっこオオカミ」(まこと座)の2演目(各30分程度)とし、部屋の前後にそれぞれ舞台を設置した。1演目の終了後に振り返ると、新たな演目を続けて見られる。子どもたちに飽きさせないよう考えた。
 人形劇が始まると舞台が観客を巻き込み、人形劇の中で大人も子どもも一緒になって楽しんだ。人形劇の魅力は舞台と観客が相互に言葉をかけながら進行するところだ。「まほうのほうき」では、悪い魔女の居場所を子どもたちが主人公に教え、魔法の呪文を一緒に唱えた。「ちびっこオオカミ」では、ちびっこオオカミたちにあの手この手でいじわるするブタ君が現れると泣き出す子どもも(図1)。
 テレビやインターネット動画に慣れてしまっている現代の子どもたち。こうした時代の中でも、親子で一緒に心温まる体験は、子どもたちの記憶に残る貴重な1日となったのではないか。こうして、3年ぶりの連絡会イベントは大成功を収めた。




図1 人形劇の様子と開催案内

 地域文化を継承する
 人形劇の歴史は古い。大正時代に幼稚園で人形劇が上演された記録が残っており、それ以降広がりを見せたようだ。
 今日では人形劇は重要な「児童文化財」のひとつとして認知され、保育の場で実践されている(中野真樹「児童文化財としての「人形劇」教材研究指導」『関東短期大学紀要)第60集(2018))。
 「子どもたちが人形劇という虚構の世界を経験することによって、現実に戻ったときに実際の世界で見落としていたものを発見できる、子どもの情操の発達にとって人形劇鑑賞がすぐれている(向平知絵・棚橋美代子・米谷淳『保育学生に対する人形劇の実習指導に関する一考察』神戸大学大学教育推進機構『大学教育研究』第16号(2007))という研究もある。
 一方で、船人連の活動継承は難しくなってきているという。連絡会や各園父母会が人形劇を開催していくことで地域文化の継承にも貢献できるのではないか。

 子どもを通じた友人
 第一生命経済研究所が2022年10月、小学生以下の子どもを持つ男女を対象に「子どもを介して知り合った友人=ママ友・パパ友」についてアンケート調査したところ、「いない」と答えた人が過半数で、約20年前の調査に比べ9倍に増えた。
 研究員の福澤涼子さんは、その要因としてコロナ禍で交流の機会が減少したこと、個人差はあるとしても、「育児情報や、相談相手、働くことで社会とのつながりもある現在、限られた時間を割いてまで、ストレスの種となるかもしれない友人をつくる必要性を感じない」と分析している(もうママ友は必要ないのか ~現代における「子どもを介した友人」の価値を考える~ | 福澤 涼子 | 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp))。
 ママ友・パパ友がいなくても子育てはできる。しかし、子育てには、ネット上の情報や職場の人間関係だけでは解決できないことがたくさん出てくる。頼りになるのは同じ園(学校)に通い、同じ地域で住み、子ども同士も知っている人間関係ではないか。 こうしたつながりをつくるのが父母会活動であり、その潤滑油になるのがイベント開催だ。父母会活動を通じて「人のつながり」・「地域のつながり」そして「文化継承」も視野に、次の世代へバトンをつなぎたい。

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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